最終面接後にリファレンスチェックを求められ辞退した話
「内々定です。つきましては、リファレンスチェックをお願いしたいのですが……」
最終面接を終え、志望度の高かった企業から届いたメール。そこに綴られていた言葉に驚き、落胆し、静かに辞退を決意した。
と、週刊誌風に書き始めたのですが早速ネタが尽きたので、私がなぜリファレンスチェックを理由に内々定後に辞退したのか、その経緯と想いについて一部情報を伏せた上で書き残しておきたいと思います。
尚、リファレンスチェックを実施している企業を批判する記事ではありません。
1. 停滞するキャリアと新たな挑戦
私は情報系の大学院を卒業後、いわゆる外資系企業に入社し、約10年間データアナリスト/データサイエンティストとしてキャリアを積んできました。
主に統計モデリングや各種シミュレーション、機械学習やディープラーニング、最近ではAIエージェントなどの生成AIの社会実装といった業務を行ってきました。たった10年の間ですが、目まぐるしく起きた技術革新により職務内容があれよあれよと変化していったことに驚きながらも全力で楽しんでいました。
今の職場は非常に居心地が良く、幸いなことに人間関係にも恵まれています。しかし技術者としては更なる技術的深化に難しさを感じるようになり、これ以上コンフォートゾーンに浸かるわけにもいかないと考え、成長を求めて転職活動を開始しました。
正直なところ、給与面で現職を超える条件は国内大手企業でもそう多くありません。というか、存在しないかも。そのため年収アップよりも新設ポジションでの挑戦や社会的インパクトの大きさを重視して求人を探していました。
2. 選考はトントン拍子に進んだ、はずだった
そんな中、国内大手企業で同業の上流分野を担う新設ポジションの募集をエージェント経由で紹介されて応募しました。いわゆるアーキテクト系の職種です。
エージェントからも太鼓判を押され、実際の選考も非常にスムーズに進んでいきました。後のエージェントの話では先方にも非常にスピーディな対応をして頂いていたようで、一次面接から役員面接までトントン拍子に進みました。そして役員面接後、無事に内々定の意向をいただいたのですが、そこで一つの条件が提示されます。
「上司や同僚から最低2名を選び、リファレンスチェックに協力してもらってください」
内々定のメールにさらっと記載されたこの一文が、のど元に刺さった小骨のようにひっかかり、結果として私の判断を変えることになりました。
3. そもそもリファレンスチェックとは
リファレンスチェックとは企業が選考候補者の同意を得た上で、現職の上司や同僚に問い合わせを行い経歴の真実性や日頃の働きぶり、人間性などを確認するプロセスのことです。
具体的には協力を承諾してくれた上司や同僚にリファレンスチェックを提供するサービスのURLを共有します。そこで1時間程度のアンケートが行われ、最後に上司や同僚の身分を証明するものを添付して終了というのがよくある流れのようです。
外資系企業やベンチャー企業ではそれなりに行われているそうで、最近では国内の大手企業でも採用におけるリスク低減のために実施されるケースがあるそうです。
4. なぜリファレンスチェックを断ったのか
企業側が採用におけるミスマッチなどのリスクを避けたい気持ちは理解できます。しかし、一人のデータサイエンティストとして、また私自身も技術面接という形で面接官を100回以上務めてきた経験から、どうしても譲れない想いがありました。
面接官の「見極める力」への疑問
本来採用面接とは、限られた時間の中で採用候補者と真摯に向き合い、その思考力や技術力を効果的に測り、自社にマッチするか、活躍できそうかどうかを判断する真剣勝負のはずです。
経歴書に記載された華やかな実績から目星をつけて深掘りし、オープンな質問を通じて候補者の素質を見極めることこそが面接官の仕事であり、またプロとしての醍醐味ではないでしょうか。結局、リファレンスチェックという形で第三者の評価に頼らなければ合否を決められないという姿勢が、頼りなく見えました。
候補者を「一人のプロ」として信頼しているか
私自身、技術面接の場では常に候補者を一人のプロとしてリスペクトし、対等に向き合うことを信条としてきました。
役員面接を終え、笑顔を交わし、お互いの価値観をすり合わせたはずの段階で、なおも第三者による裏付けを求める。その姿勢に、今後一緒に働く環境としての信頼の土台が揺らいでしまいました。
現職の仲間への負担とリスク
私にとって最も大きかった理由ですが、現職でお世話になっている人々にお手間をかけ、さらには転職も決まっていない段階で余計な心配を抱かせることになります。
特に私によくしてくださっている上長は去年二人目の女の子が生まれたばかりであり、仕事に家庭に大忙し。自身の悩めるキャリアのために他者の人生を左右する可能性のあるようなお願いをして今のチームの平穏を乱すことはできません。面接を多く担当してきた立場としても、候補者のその後を想像しながら評価を下す、その決断の重さを痛感しているからです。
あえて意地悪な見方をすれば、未来の仲間であるはずの候補者とその所属企業に負担を押し付け、採用側の企業ではリスクを取らない。自社さえ良ければそれでいいという姿勢は、候補者を育てたであろう所属企業に対するリスペクトに欠けているように見えてしまいます。
5. その後
結論として私はリファレンスチェックを丁重にお断りし、時間を割いて頂いたことに感謝を伝えた上で内々定を辞退しました。
応募した企業の担当者はその後も丁寧に対応してくれましたし、後にエージェント経由でリファレンスチェックなしでもよいとのご連絡も頂きました。残念ながら、既に次に進む決断をしていたため応えられませんでしたが……
延べ10人近くが関わった選考プロセスであったため申し訳ない気持ちも多分にありましたが、もし募集要項や最初の面談で「リファレンスチェックを実施します」と明記されていれば。少なくとも事前に上記の悩みや想いに向き合い心の準備をすることができたはずで、不意打ちを食らったような気がしたのも事実です。
企業側はリファレンスチェックがあると記載してしまうと、尻込みして辞退する層がいるかもしれないと危惧して、募集要項などに明記しないのかもしれません。
しかし法的には遅かれ早かれ開示して同意を得る必要がある類のものですし、仮にそういった理由であればサンクコスト効果に頼ってゴリ押してしまえというような不誠実さを感じます。
お互いの貴重な時間を尊重するためにも、選考プロセスの透明性は重要だと改めて感じた経験でした。
転職活動はスキルだけでなく、価値観のすり合わせでもあります。今回の決断が正解だったかどうかは分かりませんが、少なくとも自分の気持ちに嘘をつかずに済みました。
幸い、とある外資系企業のポジションで同時期にオファーを頂いていたため現職とそちらで悩み抜いているところです。外資ですがリファレンスチェックはありませんでした、そういえば。
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