AIスキル偽装マルウェアによるサプライチェーン攻撃 など: Cybozu PSIRT Monthly(2026年2月号)
こんにちは!サイボウズ株式会社 PSIRTのJJ (yuasa)です。
はじめに
PSIRTでは、各メンバーが気になったセキュリティに関する記事や話題を随時、社内のスレッドに投稿しています。今回は、2026年2月にスレッド内で共有された記事や話題を紹介するとともに、同月に動きのあったWeb標準についてのセキュリティ関連トピックについても取り上げます。
共有された記事・話題
脆弱性診断士/ペネトレーションテスター倫理綱領が公開
脆弱性診断やペネトレーションテストに従事する技術者に向けた倫理綱領が公開されました。脆弱性診断やペネトレーションテストは、対象システムに対して擬似的な攻撃を行う性質上、高い倫理観が求められます。技術的なスキルだけでなく、どのような行動が許容され、どこに線を引くべきかを業界として明文化する動きは非常に重要だと感じました。攻撃的なセキュリティ活動に携わるすべての方が改めて倫理について考える良い機会になるのではないでしょうか。
Top 10 web hacking techniques of 2025
PortSwigger社による恒例のTop 10 web hacking techniquesの2025年版が公開されました。毎年、コミュニティの投票を経て選出されるこのランキングは、その年に発見・発表された新しいWeb攻撃技術のトレンドを把握する上で非常に参考になります。個人的には、2位のORM Leakが気になりました。ORMの普及によりSQLインジェクションはほぼ見られなくなりましたが、ORMの検索・フィルタ機能経由でデータを抜き出す手法が体系化されており、ORMだから安全とは限らない点は意識しておきたいです。
【優勝🥇】防衛省サイバーコンテストをAIで攻略した話
防衛省主催のサイバーコンテストにおいて、AIエージェントを活用して優勝したという記事です。脆弱性の発見や解析にAIエージェントを活用する事例が増えてきており、その能力の高さが実際の競技結果としても示された形です。防御側・攻撃側の双方でAIの活用が進む中、脆弱性診断やペネトレーションテストの業務においてもAIエージェントをどのように取り入れていくかは、今後ますます重要なテーマになると感じました。
OpenClawの「AIスキル」を装ったマルウェアが数百件アップロードされているという報告
OpenClawにおいて、AIスキルを装った悪意のあるパッケージが数百件アップロードされていたことが報告されました。AIエージェントの拡張機能やスキルといった仕組みは利便性が高い一方で、npmやPyPIなどの既存パッケージエコシステムと同様に、サプライチェーン攻撃の格好のターゲットになり得ることが改めて示されました。「便利で簡単にインストールして使える」という特性は、裏を返せば信頼性の検証が不十分なまま導入されるリスクと表裏一体です。拡張機能のインストール前にその信頼性を評価する仕組みや運用ルールの整備が急務だと感じました。
FIRST Forecasts Record-Breaking 50,000+ CVEs in 2026
CVE採番の管理を行うFIRSTが、2026年に登録されるCVEが過去最多の50,000件を超える見通しであると発表しました。脆弱性の件数が増加し続ける中で、すべてのCVEを同じ粒度で追跡・対応することは現実的ではなくなりつつあります。自社製品に影響のある脆弱性を効率的にトリアージし、優先度をつけて対応していくプロセスの最適化がますます求められると感じました。
Claude Code Flaws Allow Remote Code Execution and API Key Exfiltration
Claude Codeに複数のセキュリティ脆弱性が報告されました。Hooks、MCPサーバー、環境変数といった設定の仕組みを悪用することで、ユーザーが信頼できないリポジトリをcloneして開くだけで任意のシェルコマンドが実行されたり、Anthropic APIキーが窃取されたりする可能性があったとのことです。特にCVE-2026-21852では、悪意のあるリポジトリの設定ファイルでANTHROPIC_BASE_URLを攻撃者が管理するエンドポイントに向けることで、フォルダを信頼するアクションをする前にリクエストが送信され、APIキーが漏洩し得る状態でした。AI駆動の開発環境においては、信頼できないコードを実行するリスクだけでなく、信頼できないプロジェクトを開くこと自体がリスクになるという脅威モデルの変化を強く認識する必要があると感じました。
Making frontier cybersecurity capabilities available to defenders
Anthropic社がClaude Code Securityを発表しました。これは、Claude Codeのコーディング能力をセキュリティ領域に特化させたもので、脆弱性の発見や分析を支援する機能を提供するものです。各社からセキュリティ特化のAIエージェントが続々と登場しており、脆弱性診断の業務そのものが大きく変容していく可能性を感じます。AIによるセキュリティ業務の自動化・効率化の流れは加速しており、PSIRTとしてもこうしたツールの評価・導入を積極的に検討していく必要がありそうです。
Web標準に関するトピック
サイボウズは、2025年4月よりW3Cのメンバーに加入しており、一部のメンバーはWeb標準についてキャッチアップを行なっています。 このコーナーではW3Cに限らず、TC39やWHATWGなどの標準化団体のセキュリティ関連トピックについても扱います。
Chrome 145でOrigin APIが導入
2026年2月にリリースされたChrome 145において、Origin APIが新たに導入されました。これまでOriginは文字列としてしか取得できず、同一オリジン判定で誤りが生じやすいことが脆弱性につながるケースも指摘されていました。今回導入されたOrigin APIでは、比較・シリアライゼーション・パースのメソッドを備えたOriginオブジェクトが提供され、より安全なオリジン判定が可能になります。
Chrome 145でDevice Bound Session Credentials(DBSC)が導入
同じくChrome 145において、Device Bound Session Credentials(DBSC)が導入されました。DBSCは、ログイン時にTPM等のハードウェアで秘密鍵を生成・保管し、短命なセッションCookieの更新時に秘密鍵の所持を証明することで、セッションをデバイスに暗号的に紐づける仕組みです。Infostealerによるセッションハイジャックが増加する中、窃取したCookieを別のマシンで使い回す攻撃を無効化するアプローチとして注目されます。
おわりに
個人的には、2月はAIとセキュリティの関係性がますます深まっていることを感じる月でした。AIエージェントの能力がサイバーコンテストで優勝するほどに高まっている一方で、AIエコシステムを狙ったサプライチェーン攻撃も現実の脅威として顕在化しています。攻撃と防御の両面でAIの存在感が増す中、PSIRTとしてもAIをうまく活用しつつ、AI特有のリスクにも目を向けていく必要があると改めて感じました。
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