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情報過多な近年の新人教育問題について考える

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6月半ばを過ぎ、IT業界の新人研修も一段落した頃でしょうか。
この時期になると体調を崩す人がでてきたり、研修内容に対する不満の声が聞こえてきたりします。

教える側としてはどうしてこういう状況になっているのだろうか?と毎年考えさせられます。

本当に新人に必要な研修なのか?

大手IT企業をはじめとした新人教育研修情報を公開する企業が増えました。
情報的に見ても充実した内容で価値あるものだと思います。
一方で、会社の宣伝的な側面が強いようにも感じてしまうことも正直あります。なにより、私はこう言いたい。

「その研修って本当に新人の業務で必要なことなんですか?」

新人教育の目的は業務に必要な能力を身につけることのはずです。だとしたら業務必要ないものは極論やらなくていい。
例えば業務でSQLを全く使わないのであればSQL研修は不要です。もちろんエンジニアとしては知っておいて損はないものですがそれは必要になったときに学べば良いものです。

しかし、実際には「新人教育=プログラミング基礎研修」という考えが根強いように思えます。

誰も得しない新人教育のリアル

こうした状況はなんだかおかしいなと思いながらも、毎年繰り返されているように思います。

新人は… 大量の情報を押し付けられて、消化不良のまま疲弊する。
教える側は… 教育経験が乏しいのに丸投げされ、何を教えればいいか分からない。
経営・マネジメント層は… 他社の派手な研修を見て「うちもやらなければ」と考え、結果的にうまくいかない。

というのはどこでもみられるような状況なのではないでしょうか。

社会人として技術より先に身につけてほしいこと

新人、特に1年目から3年目の間は、小難しい技術よりも「社会人としての基礎」を身につけてほしいということです。
社会人としての基礎とは「誠実であること」。これさえ守れていれば、最初の数年はもうバッチリです!

誠実であることとは、例えば以下のようなことです。

  • 仕事に対して真摯に取り組む
    • 仕事の内容を理解しようとする姿勢
    • 分からないことは素直に聞く
  • 期限を守る
    • 遅れそうなら相談する(遅れても良いが、事前に相談することが重要)
  • コミュニケーションをきちんとする
    • 元気に挨拶をする
    • 報告・連絡・相談をする

簡単そうに見えて実はこれらのことが一番難しいのです。こうした基礎的なスキルを上げる習慣というのは井戸に雪をいれるようなこと「担雪埋井(たんせつまいせい)」と言われたりもします。

調子がいいときも、悪い状況のときも誠実でいられることを目指していください。
あくまで、誠実でいられることが理想であるというだけです。できなくても仕方のないことです。つらい状況でも誠実に振る舞いつづけるのはとても困難です。くれぐれも無理や無茶はしないこと。
あなたも私も壊されるために誠実でいるのではありません。

教え方:コーチング VS ティーチングについて

新人教育において、コーチングとティーチングのどちらが良いかという議論がしばしばされます。
コーチングは「自分で考える」ことを重視し、ティーチングは「教える」ことを重視します。

どちらが良いかは一概には言えませんが、私は新人教育においてはティーチングの方が適していると考えています。ある社会の、ある組織の価値基準というのは社会に出たばかりの新人状態では持っていないことが普通です。
まずはその価値基準を伝えて理解してもらうことが重要です。その場合手法としてはティーチングを選択せざるを得ません。

もってないものを考えさせても状況的に「私が考えた正解」VS「上司の持ってる正解」という対立構造になってしまいがちです。そういうのは価値基準ができてから一緒に考えていこうという姿勢でやればよいと思います。

ティーチングのメリットとしては情報の伝達がしやすいというメリットがあります。しかし、デメリットとして非常に退屈になりがちです。

おすすめとしてはティーチングで業務に必要な要素だけを教えて素早く研修を終わらせて業務に入ってもらう。そして、業務で困ったことをコーチングで一緒に考えていく研修のほうが良いと思います。

と、なるとメンターがうまくコーチングできる必要がでてくるという別の問題が浮上するという・・・

多種多様な正解がある中での新人教育の難しさ

こうした課題が慢性的にあるのはITによる情報過多と多種多様な価値観を尊重することによって正解が決められなくなったことが大きいのではないかと思います。やれVUCAだ、不確実性とか言われがちなのはこういう理由。

とはいえ、私ら40代の世代は祖父の世代から戦時中の話を聞いていたのでそれと比べると質は違うがあの時代は今よりももっと不確実だったよなぁ、とは思うのですが。

情報過多な近年の新人教育問題には様々な背景があります。今回挙げたような組織的な構造問題、言い換えると教育の環境が整っていないことによる分配問題は根本的な解決は困難です。現時点では、採用宣伝的な研修共有の一時的な価値に惑わされない。まともな教育を継続的に行うにはそれ相応の継続的な投資が必要であることに気づく人が増えればよいと思います。

新しく社会に入ってきた人達がすこしでも過ごしやすくなるために私らの世代は具体的なアクションをしていきたいものです。VUCAだからできないんです、とかは言いたくないなー。

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