Fusionの3Dデータから図面を描く
金属削り出しなどをやりたい場合、図面が必要になることも多いと思います。
この記事を参考にすることで、3Dデータからのある程度の図面が作成できるようになります。
設計時の注意
CADで作成した格好いい3Dデータが本当に加工できるかどうかを考える必要があります。
・オーバーハングの規模
3軸CNCを使用する場合、エンドミルは上からまっすぐに差し込まれます。つまり、オーバーハングがある形状では裏返したり横倒しにして再加工する必要が出てくるということになります。
この再加工の回数が増えると工賃が上がるので、可能な限りオーバーハングは減らすということを心掛けます。
・工具のアクセス
例えば、一枚の板から垂直に、同じ方向に同じ大きさの3枚の板が生えているデータがあったとします。中央の一枚にだけ穴を設けることは、ドリルや3軸フライスでは不可能です。
5軸マシニングセンターなどを使用すれば斜め方向からミルを差し込めるため、可能ではあるのですが、こちらも加工費の増加につながります。
・無理な薄さ・厚みの設定
いくら金属とはいえ、薄肉部にもある程度の厚みが必要です。あまりにも薄いと切断時の力や熱で曲がってしまうこともあるため、切削加工の場合は5mm程度残すようにしましょう。
・内側Rの設定
ミルは円柱型をしているため、内側を削っていったときに直角の角を作ることができません。
ミルの直径に合わせて内側の角に円弧フィレットをかけ、加工が可能なようにします。
なお、底の角は直角のままで問題ありません(スクエアエンドミルが角まで攫ってくれます)。
どうしてもこの形状が良い、という場合は、切削ではなくレーザー焼結による金属3Dプリントも視野に入れましょう。ただし、切削加工の費用は加工量と難易度に依存し、3Dプリントの場合は複雑さよりもサイズの方が価格に影響します[1]。板金は切断前のサイズと加工量に依存しますが、折り曲げの規模によっては制作できない形状があるため少々面倒です。
なお、鋳造切削品については寸法精度などの面で面倒が多いためここでは扱いません。
製図前の準備
各種設定の変更
JIS B 0001に線の種類や太さなどの規定があります。ISOでも(線については)同様の記法なので、これに従うように設定を行います。
投影法(品物の図の置き方)は、ヨーロッパや中国では第一角法が一般的で、日本やアメリカでは第三角法を採用しています。図面の表題欄に空欄か、「投影法」と書かれた枠があるので、ここに二重丸と横向きの等脚台形を配置して指定します。
糸面取り・フィレットの設定
データ全体に渡って0.4R程度の糸面取りやフィレットをかけている場合、解除して角が立っている状態にします。
3Dデータから図面に自動で起こす場合、フィレットに接続された面はすべて同一の面として認識してしまうため、図面上で角がどこにあるか分からなくなってしまいます。
これを回避するため、糸面取りやフィレットを削除し、図面に「指定のない角は糸面取りとする」などといった注記を入れることで面取りにします。
※糸面取りは当然に行う作業なので、万一抜けていても特に怒られることはないと思います
寸法精度について
工作機械は調整が効いていれば0.01mm以下の精度でも普通に出せてしまいます。ここでもし、図面上で小数点以下2桁まで指示されていた場合、この数字に合わせるまで厳密に加工を行う、という意味を持ってしまいます。
これを回避するため、寸法はある程度の桁まで、可能ならミリメートル単位の整数値に丸める必要があります。
また、寸法の公差(ここからここまでであれば許容される幅)はJIS B 0405に普通公差として指定されています。
これを参照し、指定している部分の長さに対する公差域を確認すると、概ねどの程度の仕上がり寸法になるのかが分かります。
相互に接続する品物との公差を考え、適切な数値になるよう、必要な部分は高精度になるように、調整しましょう。
製図
製図で行うことは概ね、以下の通りです。
・表題欄の作成
・形状の配置
・幾何学的な形状の指示
・各部の長さ・角度等の指示
・表面性状の指示
・ネジや穴の指示
表題欄の作成
図面の右下に必ずある、品名や素材、図面製作者の名前の表記やバージョン管理を行うための欄です。
必要な欄を埋めてください。
先述した第三角法・第一角法の指定もここで行います。
形状の配置
JIS B 0001では製図の原則として、品物を第三角法で描くことを指示しています。よくわからない場合は、最も複雑な部分を中央に配置し、上から見た図を上に、下は下に、右から見た図(品物を置いて、自分が右に回りこんで見た状態)は右に、左は同様、もし後ろの図が欲しい場合は右の図面のさらに右に配置するようになります。
もし左右や上下に対称、あるいは回転対称の品物の場合、左側または上側を省略し、後述する「幾何学的な形状の指示」で対称線を配置します。
幾何学的な形状の指示
形状が左右対称であったり、回転対称であった場合、細い一点鎖線を用いてこの線を基準とし対称であると指示することができます。円型配置の対称性は、円の中心を通るように一点鎖線を垂直に交差させます。
品物の全体が左右対称でなくても、短く一点鎖線を配置すれば線の掛かっている部分についてのみ対称指定になります。
各部の長さ・角度等の指示
指示すべき寸法をすべて指示し、二重指定をしない、というのが製図における大原則です。
基本的には重要な部分や長い部分の長さを先に指定し、それから細かい部分を指定していく、というのが楽でしょう。
なお、寸法指示線がどこから出ているか、は、大抵の場合、どこから計測するか、を示します。
長方形の右側からXXmmの指示があれば、右側からXXmmとなるし、左側からXXmmとなれば、左からXXmmの位置になります。
寸法が、最悪ずれても大丈夫、という位置を用意しておき、そこに向かうように左右から寸法を支持していくのがいいでしょう。
円弧を指示したい場合、円弧の中心が計測可能な場所にあるか確認しましょう。また、図面上でポリラインなどのn次曲線を指示するのは死ぬほどめんどくさいのでやめてください。どうなるか興味のある人はAppleが公開してる図面の曲線を見てください。
なお、寸法指示の後に括弧を付けて(+幾つ,-幾つ)と表記することで公差を個別に指示することができます。必ずこれ以上・これ以下の寸法にしたい!という場所に利用します。
断面指示
落とし込み形状の内側に何かを設けたい、などといった場合、第三角法による投影では内側を横から直接見ることができません。
このような場合、断面を図面中に設定し、切断した場所から見える図形を描いて寸法を指定します。
切断面を示す線を描き、両端に名前を付けます(AなどでOK)。この線に矢印の先が接するように表記します。この矢印が見ている方向を示し、図の脇にA-Aと記入しておけば、Aを切断した部分はこのように見える、という指示になります。
なお、切断を行った断面にはハッチングを施す必要がありますが、切断前後で形状が変わらないなどの理由でハッチングを施しても意味のない部分には施しません。特に軸や球が入っている部分を切断する場合は施さないので注意しましょう。
表面性状
表面性状は、加工を行った面がどの程度なめらかかを示す指示です。
たとえば、Ra 25程度だと、金属を削った刃物が通った跡がはっきりと視認できます。Ra 6.3程度でははっきりとは分からないものの、目を凝らしたり爪を立てると刃物の跡が分かります。Ra 3.2から下は概ね引っ掛かりのないキレイな面で、Ra 0.1未満は鏡面に近い状態になります(切削だけで鏡面を出すのは難しいので、鏡面加工は研磨を行います)。
表面性状の値が大きいほど切削速度が上がるという特性がありますが、あまり荒い面は表面積が大きいため汚れやすくさびやすいという弱点があります。
一般用途であればRa 3.2あたりを指示します。
※研磨やブラスト等の後処理で分からなくなる場合もあります
ネジや穴の指定
穴を設けたい場合、穴の直径、深さ(あるいは貫通)を指定する必要があります。場合によりリーマ加工などで内部の精度を厳密に出したりもできますが、楽なのはドリルを用いるキリモミ指定でしょう。
ドリルの場合、精度が出づらく、だいたいドリル径+0.2mm程度の穴に仕上がります。
別の金属棒をはめこむなどの用途でなければ問題ないですが、焼き嵌めやノックピンでの固定を考えている場合は、リーマ指定も必要になります。
ネジ穴はM値で指定します。JISにネジの下穴径の指定があるのでこちらに従った径で穴をあけ、タップを立ててネジの溝を作ってもらうということになります。
めんどくさいよ!!!
みんなめんどくさいって思ってたのでSTEP拡張子が開発されました。こいつがあると世界中のCADで同じ3Dデータが確認できて、Gcodeに変換するだけで全部なんとかなります。素敵。
STL?ありゃただのポリゴンだ
先述したポリラインの指示も、STEPファイルなら機械に読ませるだけで済みます。
ただし、STEPファイル自体は3Dデータのため、ネジを表現するのが非常に面倒なことや、表面性状についての指示ができないこと、寸法公差の個別指定などができないことから図面を併用する必要があります。
3Dデータをそのまま使用するような、JLCPCBやElecrowなどの切削サービスでは、寸法公差は全面に亘りISO 2768として扱っています。つまり、厳密にここがこの精度でほしい!という需要には答えられないわけです。表面性状も同様で、全面についてRa 3.2を指定するのがデフォルトで、Ra 1.6にしたい面があるなら図面で指定してね、というような運用を取っています。
さて、ここまでで一応図面のざっくりとした書き方については説明したのですが、実物を見ながらそれっぽく描くのが一番うまくいきます。幸い現代では販売しているパーツに対して図面を公開している企業も多いですし、なんなら教科書もあります。私のお気に入りは「新編JIS機械製図」で、製図の基礎、ある程度の機械部品の寸法などの一覧表、図面の実例がまとめて載っています。普通の本屋にはないことが多いですが、捜してみるのもいいでしょう。ステマじゃないよ。
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あまりにも複雑だとサポートを剥がすのに追加費用を取られたりします ↩︎
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