自作キーボードの開発における寸法公差の考え方について
ガチガチの開発者向け記事ですが、組み立て時になんか部品が合わないな?みたいな時にも役立つかもしれません。
寸法公差とは?
図面上である寸法を指定した際に、その数値に対してどの程度の範囲を許容するか、という考え方です。
例えば、JIS B 0405 m(中級)では、3mmを超え6mm以下の長さに対してはプラスマイナス0.1mmの幅があってよく、6mmを超え30mm以下の長さに対してはプラスマイナス0.2mmの幅が許容されています。
なお、JIS B 0405はISO 2768-1と互換性のある規格となっています。欧州や中国ではISOが使われることが多いため、それぞれ参照する場合は注意しましょう[1]。
どの程度祈ればいい?
通常、公差域内の分布は正規分布に従います。公差域の中央にほとんどが寄っているため、相当な不運がない限りはとんでもない公差を引くことはない…と思います。
なぜ断言できないかといえば、数千個とはいかないまでも数百個、場合によっては数十個のパックですら、公差域の端を取るパーツが混ざっていることがあるためです。
また、安売りされているものの場合は公称値から外れたものが多くなることが多くなっています。[2]
逆に、ナットやネジは非常に高精度なこともよくあり、8mmのネジに1.6mm厚のナットがぴったり5枚入る…などといったことがありえます。
結局のところ、公差域は公差域でしかなく、盲信するには頼りなさすぎるものの、最初から疑って掛かるにはちょっと信頼性がありすぎる、という程度です。
部品がいい感じに求める寸法になるように、あるいは、複数組み合わせたら寸法の凹凸が整うように、いい感じに祈ってください。
無理そうだったらさっさと諦めて部品を変えるのも手です
キーボード開発における寸法公差
考慮すべき要素は非常に大量にあります。以下では、組み立て時に影響が大きいと思われるものに限り、部材名>部位の順で系統立てて解説します。
基板関連(FR-4ガラスエポキシ基板)
板厚
板厚の±10%、つまり、1.6mmの基板は1.44mm~1.76mmの間に収まっていればよいということになります。
ロープロファイル用の1.2mm基板は1.08mm~1.32mmの間となります。
この公差は基板からシルクスクリーン・ソルダーレジスト・銅箔層をすべて乗せた状態+少々と抜いた状態-少しが上限・下限として扱われるのが一般的であり、逆に言えば、これらをスペーサーやネジに当てるように利用すれば0.1mm程度の厚み調整が可能ということになります。
長さ
PCB加工サービスでは長さ方向に±0.2mmが多くなっています。基板端にアクリルを密接させる、などのことを行わない限り、致命的になることは少ないでしょう。
アクリル板
板厚
キャスト板であれば±0.5mm、押出板であれば±0.3mm程度となります(メーカーにより変動)。
レーザーカッターでは押出板よりキャスト板の方が加工しやすいため、数を出すとものにより1mmの誤差範囲があるということになりますが、そのようなことはよほどの事故がなければ大丈夫でしょう。
精密薄板の場合はより高精度になります。
長さ
工作機械により変わりますが、概ね±0.2mmを見積もっておけば問題ありません。
ねじ・スペーサー・ナット
ねじ部長さ
+0/-0.5程度の公差で考えるのが一般的です。ねじは全体的にマイナス公差が多くなっているため、対象物からはみ出すことが少ない代わり、端にナットをぴったり合わせるとかみ合うかどうか怪しいことがある、と覚えておきましょう。
ねじ頭の直径
一般に+0/-0.5程度となっています。基板側の穴位置などによっては頭が他のパーツに干渉することもあるため、あまり攻めた設計は行わない方が安全です。または、より高精度で小型な0番ねじ(マイクロねじ)を使用しましょう。
スペーサーの長さ
±0.1程度が一般的です。10mm以上になると公差域が大きくなることがありますが、自作キーボードの範疇では大した問題にはならないでしょう。
ナットの厚み
+0/-0.3程度で考えます。高精度・綺麗なものが必要な場合は圧造ナットではなく切削ナット(高価)に切り替えましょう。
なお、1.6mm基板とM2 1種・2種ナット、1.2mm基板と3種ナットは同じ厚みとなっています。また、M3 1種・2種ナットを使用すると1.2mm基板2枚分の厚みとなります。
ねじのはめあい長さについて
いわゆる「ねじとナットの厚みの関係」という話です。
普通のねじを使っているならば、おねじの呼び径の0.8倍の長さがめねじに掛かっていれば問題なく締結できます。つまり、M2であれば1.6mm掛かっていればいいし、M3であれば2.4mm掛かっているとよいというわけです(1種・2種ナットの厚みは呼び径の0.8倍です)。
ここで問題になるのが、面取り部の存在です。
圧造ナットやエンザート、スペーサー等はねじの先が入りやすいようにめねじの入り口を斜めに削り取っていることがあります。
この部分はめねじの長さにカウントしないので(強度計算ができないのでそもそも切り捨てて考える)、面取りの深さにもよりますが+0.5mm~1mm程度の長さを掛けるようにする、と考えるといいでしょう。
例として、1.6mmの基板に穴をあけてM2ネジで止め、裏から長いスペーサーで固定するとき、ネジが3mmだとスペーサー側に1.4mmしか噛まないということになります。精度のいいネジであればこれでも問題ないですが、粗いネジだと噛まないため、4mmネジに変更して、2.4mm噛ませると安定します。
その他のパーツの寸法公差
図面を当たればどこかに記入があるはずです。
なお、その図面にしても正確である保証はなく、大企業製のパーツの図面であっても稀に間違っていることがあるため、品物を複数入手して計測するのが一番いいです。(一敗)
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