[2025年10月31日] 「非営利AI開発」という夢の終わり (週刊AI)
こんにちは、Kaiです。
今週は技術的なインパクトというよりも、ビジネス的なインパクトとしてOpenAIの営利組織化ニュースが大きな話題でしたね。そもそも非営利であまねく人類にAIの恩恵をもたらすという思想だったものが、(非営利の面は一応残しつつ)名実ともに変質を完了した瞬間でした。
私も以前ニューラルネットワークの研究をしていたので、Transformer前夜はなんとなく「全てを解決する未知のアルゴリズムがあり、それがAGIにつながるのでは」という期待感があったような気がします(私の周囲だけかもしれませんが……)。そしてその期待感が、個人や小規模組織でも大きな変革を生み出せるかもしれないという熱量につながっていたようにも思います。始まりの頃のOpenAIも、その先にある「天才が集まる小規模な非営利組織から生まれた画期的アルゴリズムによるAGI」という夢を見ていたのかもしれません。
ですが、学習・推論のスケーリング則が徐々に定説化していくにつれて、閃きやアイデアの重要性は維持されつつも、同等かそれ以上に「計算資源による差別化」が重視されるようになりました。GPUを何万枚持っているか、データセンターを何㎡建設したか、発電容量をどれだけ確保したか、そういった土俵へのシフトが、いわばキーボードとコードの勝負からゲームを変質させてしまったのだと思います。
そうなれば、もはやゲームに勝つためには資本をつぎ込むしかありません。資本を集積させるためには、リターンの夢を見させられる営利企業になるしか(現状は)ありません。サム・アルトマン氏の心中がどんなものであったのかは分かりませんが、OpenAIの経営レベルにいた人たちは、大なり小なりすべてこの葛藤を経験したのではないでしょうか。
これでいよいよ、AIは名実ともに資本のゲームに入ります。つまり、ステークホルダーが儲かるか儲からないかの判断によって、研究開発がステアリングされることになります。
「レディ・プレイヤー1」という映画がありました。とても大好きな映画であり、エンジニアが作り上げて皆の夢の世界になっていた仮想空間に対し、敵役のビジネスマンが広告で埋め尽くして収益を何倍にも上げようとするシーンが印象的でした。AIは仮想空間よりもさらに、人間の生活の全てに入り込んでくることは間違いありません。それが人間をより疎外し、退化させる方向に進まないことを祈ります。
さて、では今週のポエムはこのあたりにして、トピックスにいきましょう。
注意事項
- 直近収集したAIおよびWeb系の記事やポストが中心になります
- 私のアンテナに引っかかった順なので、多少古い日付のものを紹介する場合があります
- 業務状況次第でお休みしたり、掲載タイミングが変わったりします
AI新着モデル、サービス、アップデート
OpenAI: 営利組織への再編完了、2027年にもIPOへ
「Open」とは一体何だったのか……。とはいえ、スケーリング則が明らかになった結果、膨大な資本をつぎ込むゲームになった以上、これしか選択肢はなかったのでしょう。
OpenAI: gpt-oss-safeguard
突然オープンモデルが生えてきました。ですがこれめっちゃ使えそう。要は「ユーザが提供したポリシーに基づいてテキストを分類することに特化したGPT」です。セーフガード特化ですが、他の用途でも大いに可能性を感じます。二値分類なのがちょっとな……。 (解説)
OpenAI: OpenAI、ChatGPTにSlackやGoogleドライブに分散する情報を横断検索する「company knowledge」追加
Gemini Enterprise対抗機能ですね。この方向性は両社とも順当に進化させていくでしょうし、AIをラップしているSaaSなどは厳しくなるかも。
Amazon: 時系列データに特化した基盤モデル「Chronos 2.0」
Chronos1.0が単変量予測だったのに対し、多変量、共変量の時系列予測が可能とのこと。
Anthropic: 金融機関向けClaudeを大幅に強化
Excel統合やリアルタイム市場データ分析など。Anthropicがこっちに出てくるのはちょっと意外ですが、「善きツール」を目指す方向性とは合致していそう。
GitHub: 異なるタスクを異なるエージェントに割り当てられる「Mission control」を発表
まだ機能分化は進んでいませんが、恐らく近い将来専門家AIエージェントが一般化するはず。それを見据えた動きですね。
その他AI系話題
Beyond Scrum AIの力で開発プロセスを変革し続けるチーム
SDDとスクラムの相性が悪いのでは?は正直私も感じていたところなので言語化されており嬉しいです。AI並走開発の新しいスタイルが必要な気はしており、当社でも試行錯誤したい。
Claude Code導入3ヶ月後の社内アンケートから分かったこと
並列作業によるストレス、疲労感の増加という「新しい疲れ」が生じたというのは興味深いですね。確かに自分で触っていても感じるところはあります。
今こそCodexに全振りするチャンス!ClaudeCodeからCodexへの移行と実践Tips9選
具体的な移行手順や、使用する際のドキュメント例が紹介されており参考になります。Claude CodeとCodexはそれぞれちょっとクセがあるような気がしますね。
LLMのキモい算術
とても面白い。LLMが算数をどうやって解いているかというお話。まさに「おぼろげながら浮かんできたんです」という感じ。
AgentCore IdentityでAIエージェントに対する認証機能を実装する(EntraID × Atlassian Cloud)
AIエージェントの認証は最近ホットになっている話題ですが、こちらはインバウンド認証に Microsoft Entra ID、アウトバウンド認証にAtlassian Cloudの例。いやしかしかなりややこしい……。
AI エージェント時代のリスク対策 : 認証・認可をあらためて学ぶ
ちょうどAIエージェント認証のいい記事が出ていました。AWS公式でよくまとまっています。
AIでデータ活用を加速させる取り組み
Ubieさんの事例。領域も近く、具体的なアーキテクチャも公開されており大変参考になります。
WEB開発系話題
0からフロントエンドにテストを導入した話
テストを総括したいい記事でした。最終的に「ユーザの体験」にフォーカスするというのはその通りですね。ただ、先日の記事でも書きましたがWebのフロントエンドがどこまで生存し続けるかは……。
Hono + Cloudflare Workers でOG画像を動的に生成する
これは他のFWでも応用できそう。いいですね。
TerraformとSAMで実現するモダンAWSアーキテクチャ 構築ガイドライン
「全部入り」という感じ。コードサンプルもあり、写経するだけでちゃんとしたものが出来そう。チームごとの権限分離にフォーカスしているのもいいですね。
その他一般テック話題
では素晴らしい提案をしよう。お前もライブラリを作らないか?
これは割と同感ですね。再利用性・可読性の高い小さなコードを作る経験は重要だと思います。社内利用だけでもだいぶ違うはず。
We are hiring!
私の所属するAI技術開発室では、AIを応用した医療系サービスを手掛けています。先日は以下の「CareNet Academia」をリリースしました。
積極採用中ですので、こういった医療xAIの領域に興味のある方は、是非以下からご応募ください!
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