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Fuzz Faceの入力インピーダンスを計算してみた

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はじめに

Fuzz Faceの交流利得を計算してみたの続きとして、入力インピーダンスを計算してみようと思います。

回路図と等価回路

前回と同様の回路図と等価回路を用います。

alt
典型的なFuzz Faceの回路図(NPN)

alt
Fuzz Faceの簡易等価回路

計算

入力インピーダンスZ_{in}の定義

入力インピーダンスZ_{in}は、入力電圧v_{in}を入力電流i_{1}で割ったものとして定義されます。

\begin{equation} Z_{in} = \frac{v_{in}}{i_{1}} \tag{1} \end{equation}

等価回路を見ると、入力端子から流れ込む電流i_1は、Q_1のベースに流れる電流i_{b1}と、帰還抵抗R_Fを通ってQ_2のエミッタから戻ってくる電流i_fの合計になります。つまり、

\begin{equation} i_1 = i_{b1} + i_f \tag{2} \end{equation}

となります。i_{b1}i_fをそれぞれ求めて、i_1v_{in}で表すことが目標です。

前回の記事からの式の引用

Fuzz Faceの交流利得を計算してみたで導出した式を活用します。Q_1のベース電流i_{b1}は、

\begin{equation} i_{b1} = \frac{v_{in}}{r_{ie1}} \tag{3} \end{equation}

と表せます。また、帰還電流i_fは、v_{in}v_{e2}の電位差によって決まるため、

\begin{equation} i_f = \frac{v_{in} - v_{e2}}{R_F} \tag{4} \end{equation}

となります。i_fv_{in}で表すためには、v_{e2}v_{in}で表す必要があります。

電圧比v_{e2}/v_{in}の導出

前回の記事で導出した式(6)と式(7)を再掲します。

\begin{equation} v_{e2} = - \left[ \frac{h_{fe1} R_{C1}}{r_{ie1}} v_{in} + i_{b2} (R_{C1} + r_{ie2}) \right] \tag{1-6} \end{equation}
\begin{equation} (1 + h_{fe2}) i_{b2} + \frac{v_{in}}{R_F} = v_{e2} \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}} \tag{1-7} \end{equation}

でした。ここで、i_{b2}を消去してv_{e2}v_{in}で表したいので、式(1-6)をi_{b2}について解くと、

i_{b2} = -\frac{1}{R_{C1} + r_{ie2}} \left[ v_{e2} + \frac{h_{fe1} R_{C1}}{r_{ie1}} v_{in} \right]

が得られます。これを式(1-7)に代入すると、

(1 + h_{fe2}) \left( -\frac{1}{R_{C1} + r_{ie2}} \right) \left[ v_{e2} + \frac{h_{fe1} R_{C1}}{r_{ie1}} v_{in} \right] + \frac{v_{in}}{R_F} = v_{e2} \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}}

v_{e2}を含む項を左辺に、v_{in}を含む項を右辺に移項すると、

v_{e2} \left[ \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}} + \frac{1 + h_{fe2}}{R_{C1} + r_{ie2}} \right] = \frac{v_{in}}{R_F} - \frac{(1 + h_{fe2}) h_{fe1} R_{C1}}{(R_{C1} + r_{ie2}) r_{ie1}} v_{in}

が得られます。右辺を整理すると、

v_{e2} \left[ \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}} + \frac{1 + h_{fe2}}{R_{C1} + r_{ie2}} \right] = v_{in} \left[ \frac{1}{R_F} - \frac{(1 + h_{fe2}) h_{fe1} R_{C1}}{(R_{C1} + r_{ie2}) r_{ie1}} \right]

となります。ここで、左辺の係数を\alpha、右辺の係数を\betaとおくと、

\begin{equation} \alpha = \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}} + \frac{1 + h_{fe2}}{R_{C1} + r_{ie2}} \tag{5} \end{equation}
\begin{equation} \beta = \frac{1}{R_F} - \frac{(1 + h_{fe2}) h_{fe1} R_{C1}}{(R_{C1} + r_{ie2}) r_{ie1}} \tag{6} \end{equation}

と定義でき、v_{e2}/v_{in}の比が

\begin{equation} \frac{v_{e2}}{v_{in}} = \frac{\beta}{\alpha} \tag{7} \end{equation}

として求まります。

入力インピーダンスZ_{in}の計算

式(4)に式(7)の結果を代入すると、i_f

i_f = \frac{v_{in} - v_{e2}}{R_F} = \frac{v_{in}}{R_F} \left( 1 - \frac{v_{e2}}{v_{in}} \right) = \frac{v_{in}}{R_F} \left( 1 - \frac{\beta}{\alpha} \right) = \frac{v_{in}}{R_F} \cdot \frac{\alpha - \beta}{\alpha}

と表せます。式(2)に式(3)と上式を代入すると、

i_1 = i_{b1} + i_f = \frac{v_{in}}{r_{ie1}} + \frac{v_{in}}{R_F} \cdot \frac{\alpha - \beta}{\alpha}

となるので、v_{in}でくくると、

i_1 = v_{in} \left[ \frac{1}{r_{ie1}} + \frac{\alpha - \beta}{\alpha R_F} \right]

が得られます。したがって、入力インピーダンスZ_{in}は、

\begin{equation} Z_{in} = \frac{v_{in}}{i_1} = \frac{1}{\frac{1}{r_{ie1}} + \frac{\alpha - \beta}{\alpha R_F}} \tag{8} \end{equation}

となります。これはr_{ie1}と、\dfrac{\alpha R_F}{\alpha - \beta}の並列合成に相当するので、

\begin{equation} Z_{in} = r_{ie1} \,//\, \frac{\alpha R_F}{\alpha - \beta} \tag{9} \end{equation}

と表すことができます。最後に、式(9)に\alpha, \betaを代入して整理すると、

\begin{equation} Z_{in} = \frac{r_{ie1} \left[ (R_F + R_{E2})(R_{C1} + r_{ie2}) + (1 + h_{fe2}) R_F R_{E2} \right]}{(R_F + R_{E2})(R_{C1} + r_{ie2}) + (1 + h_{fe2}) R_F R_{E2} + r_{ie1}(R_{C1} + r_{ie2}) + R_{E2}(1 + h_{fe2})(r_{ie1} + h_{fe1} R_{C1})} \tag{10} \end{equation}

が得られます。これが、入力インピーダンスの厳密解となります。


ここで、前回のもう少し踏み込んで考える項を思い出すと、

.MODEL 2SC8888-W NPN(
+ IS=2.544E-14  BF=380.43    NF=1.002    VAF=125.5   IKF=0.385
+ ISE=4.88E-15  NE=1.35      BR=8.22     NR=1.01     VAR=18.5    IKR=0.18
+ ISC=3.25E-14  NC=1.25
+ RB=12.8       IRB=5.0E-05  RBM=2.0     RE=0.185    RC=0.88
+ CJE=15.32p    VJE=0.75     MJE=0.34
+ CJC=5.12p     VJC=0.55     MJC=0.32    FC=0.5
+ TF=445.0p     XTF=8.0      VTF=12.0    ITF=0.3     TR=65.0n
+ EG=1.11       XTI=3.0      XTB=1.5

のようなSPICEモデルパラメータで与えられるトランジスタの各種パラメータと熱電圧V_T \,(\approx 26\,\mathrm{mV})を利用してr_{ie}及びh_{fe}を表すと、

\begin{equation} r_{ie} \approx r_{b} + \frac{ \beta_{eff} \cdot N_F \cdot V_T}{I_C} + (1+\beta_{eff}) \cdot r_e \tag{1-14} \end{equation}
\beta_{eff} = \frac{I_C}{I_B} \approx \frac{B_F}{1 + \dfrac{B_F \cdot I_{SE}}{I_S} \cdot \exp\left(\dfrac{V_{BE}(N_F - N_E)}{N_F \cdot N_E \cdot V_T}\right)}
h_{fe} \approx \beta_{eff} \approx \frac{B_F}{1 + \dfrac{B_F \cdot I_{SE}}{I_S} \cdot \exp\left(\dfrac{V_{BE}(N_F - N_E)}{N_F \cdot N_E \cdot V_T}\right)}

となります。もう少しざっくりとした近似を適用すると

r_{ie} = \frac{V_T}{I_C}
h_{fe} = B_F

となるので、これを代入することで入力インピーダンスをSPICEモデルパラメータとコレクタ電流、熱電圧、各種回路定数のみで表すことができます。ここで注目するべきは、r_{ie}がコレクタ電流の逆数と比例するという点です。

例として、それぞれの回路定数(下図)に加えて、h_{fe1}, h_{fe2} = 100、コレクタ電流に応じてI_{C1}=50\,\mathrm{\mu A}I_{C2}=500\,\mathrm{\mu A}として、ざっくり計算すると、


典型的なFuzzFaceの回路定数
(動作点が最適化されていないことに注意)

入力インピーダンスはRV_1の値により、約2k(ゲイン最大)〜33k(ゲイン最小)程度の範囲で変動することが求められます。

よりよい形に整理する

物理的な解釈をしたいので、もう少し整理します。
ここで、

\Delta = (R_F + R_{E2})(R_{C1} + r_{ie2}) + (1 + h_{fe2}) R_F R_{E2}

と定義すると、

\begin{equation} Z_{in} = \frac{r_{ie1} \Delta}{\Delta + r_{ie1}(R_{C1} + r_{ie2}) + R_{E2}(1 + h_{fe2})(r_{ie1} + h_{fe1} R_{C1})} \tag{11} \end{equation}

が得られます。

\Deltaの物理的意味

\Deltaの物理的意味を考えてみましょう。Fuzz Faceの交流利得を計算してみたの式(1-6)と式(1-7)を連立すると、行列形式で

\underbrace{ \begin{pmatrix} -1 & -(R_{C1} + r_{ie2}) \\ \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}} & -(1 + h_{fe2}) \end{pmatrix} }_{\text{回路行列 } \mathbf{A}} \begin{pmatrix} v_{e2} \\ i_{b2} \end{pmatrix} =v_{in} \underbrace{ \begin{pmatrix} \frac{h_{fe1}R_{C1}}{r_{ie1}} \\ \frac{1}{R_F} \end{pmatrix} }_{\text{入力ベクトル}}

と立式できます。この回路行列 \mathbf{A} の行列式は

\det(\mathbf{A}) = (1 + h_{fe2}) + (R_{C1} + r_{ie2}) \cdot \frac{R_F + R_{E2}}{R_F R_{E2}}

となり、式全体をR_F R_{E2}倍すると、ちょうど\Deltaで表されることがわかります。つまり、\Deltaは回路行列の行列式に比例する量であり、回路全体の応答性を決定づけるパラメータとして解釈することができます。

物理的解釈

式(11)をさらに整理すると、

\begin{align} Z_{in} &= r_{ie1} \cdot \frac{1}{1 + \frac{1}{\Delta} \left[ r_{ie1}(R_{C1} + r_{ie2}) + R_{E2}(1 + h_{fe2})(r_{ie1} + h_{fe1} R_{C1}) \right]} \notag \\ &= r_{ie1} \cdot \frac{1}{1+\gamma} \tag{12} \end{align}

という見通しの良い形が現れました。ここでは、

\gamma = \frac{1}{\Delta} \left[ r_{ie1}(R_{C1} + r_{ie2}) + R_{E2}(1 + h_{fe2})(r_{ie1} + h_{fe1} R_{C1}) \right]

とおきました。

この式から、入力インピーダンスの基本成分がr_{ie1}であり、ループゲインに相当する\gammaによって、入力インピーダンスが引き下げられていることが分かります。

ここで、r_{ie}に対する粗い近似

r_{ie} \approx \frac{V_T}{I_C}

が成り立つことを思い出すと、入力インピーダンスはQ_1のコレクタ電流と反比例する、即ち、Q_1のコレクタ電流を増やすほど入力インピーダンスが下がるという直接的な関係を持つことが分かります。


ここで、入力インピーダンスのR_{E2}依存を確認することを考えます。そこで、\gamma内を分かり易くすることを目指して大胆に近似して整理したいと思います。
SPICEモデルパラメータより

r_{ie,k} \approx \frac{V_T}{I_{C,k}}, \quad h_{fe,k} \approx B_{F,k}

の関係が成り立つので、これに対してさらに

\begin{align} R_F + R_{E2} &\approx R_F \notag{} \\ R_{C1} + \frac{V_T}{I_{C,k}} &\approx R_{C1} \quad \left( \because \frac{V_T}{I_{C,k}} \ll R_{C1} \right) \notag{} \\ 1 + B_{F,k} &\approx B_{F,k} \notag{} \end{align}

を適用することで、入力インピーダンスの近似式として、

\begin{equation} Z_{in} \approx \frac{V_T}{I_{C1}} \cdot \frac{1}{1 + \frac{B_{F1} B_{F2} R_{E2} R_{C1}}{R_F (R_{C1} + B_{F2} R_{E2})}} \tag{13} \end{equation}

が得られます。特にR_{E2} \rightarrow 0のとき、

Z_{in} \rightarrow \frac{V_T}{I_{C1}} \cdot \frac{1}{1+0} = \frac{V_T}{I_{C1}}

となり、ほとんどコレクタ電流のみで一意に定まってしまうことがわかります。

一方RV1最小のとき、ここでは適当にB_{F2} R_{E2} = m R_{C1} \quad (1 < m < 10)くらいであると仮定すると、

\begin{equation} Z_{in} \approx \frac{V_T}{I_{C1}} \cdot \frac{1}{1 + \frac{m B_{F1} R_{C1}}{(m+1) R_F}} \tag{13.1} \end{equation}

となります。設計にもよりますが、大抵の場合、R_{C1}R_Fの2倍から10倍程度大きいくらいであり、B_{F1}は100以上であることを考えると、入力インピーダンスはR_{E2}最大のときと比べて数百分の一まで減少します。

ここで、定性的な話をすると、入力された電流はトランジスタQ_1のベースと、R_F二手に分かれて吸い込まれますR_Fのもう一端には、Q_1で反転された電圧がQ_2のベース-->エミッタを経由して現れます。これにより、R_Fの両端には、単に入力電圧がかかる以上の電位差が現れ、より多くの電流が吸い込まれてしまいます

つまり、R_{E2}が大きいとき、Q_2エミッタから出力された電流がR_{E2}により電圧に変換されます。ここで、現れた電圧は入力に対して逆相であるため、入力側からみて、R_Fの電位差が大きく見えてしまう、逆にR_{E2}が小さいとき、電位差は小さく抑えられることが入力インピーダンスの差に繋がっていると考察できます。

これを踏まえると、RV1はゲインというより入力インピーダンスを制御していると考える方が自然だと言えます。

これが、Fuzz Faceの入力インピーダンスが極めて低い理由であり、この入力インピーダンスの低さが、ギターのボリューム追従性を高める要因となります

ギターとの相互作用を考える

Fuzz Faceの極めて低い入力インピーダンスと、ギターとの相互作用について考えてみます。

ギター用ハムバッカーとシングルコイルのインピーダンス周波数特性を比較したグラフで、両者の共振周波数とピークインピーダンスが示されている図。
ギター用PUのインピーダンス特性
https://www.ishibashi.co.jp/academic/super_manual2/electricityより引用)

一般に、ギター用ピックアップはコイルであるため、高周波ほどインピーダンスが高くなる傾向があります(厳密にはコイルの寄生容量により、自己共振を起こし10kHz近辺をピークにインピーダンスが低下する傾向があります)。この特性と、Fuzz Faceの入力インピーダンスが極めて低いという特徴より、低域と高域のインピーダンスの差から、高域だけが受けきれずハイ落ちする現象が見られます。一方ギター側のボリュームを下げることで、全帯域のインピーダンスが上がります。結果として相対的な差が縮まり、ハイ落ちが抑えられ、Fuzz Face特有の鳴りに繋がります

ギター電装系のインダクタンスと代表的な抵抗成分に加え、Fuzz Faceの入力インピーダンスだけを抜き出すと下図のように表されます。


ギターの電装系のインダクタンスと抵抗成分だけ抜き出した図

これを、まとめると下図のように、抵抗分圧として整理できます。


抵抗分圧として整理

コイルのインダクタンス成分に起因するリアクタンスは周波数に比例して増加するため、上側抵抗のインピーダンスは周波数が増えるほど高くなる傾向になります。
一方、下側抵抗は無音に近いときを除いて入力インピーダンスが支配的になるため、実質的にZ_{in}であるとみなすことができます。

ボリュームが10に近いとき、上側抵抗は高周波条件において

\sqrt{(R_{ccw}+R_{DC})^2+(2\pi f L_s)^2} \approx 2\pi f L_s

とみなすことができます。下側抵抗は一定なので、周波数が上がるほど利得は下がることが分かります。

v_{fuzz} = \frac{Z_{in}}{Z_{in}+ 2\pi f L_s}

対して、ボリュームが十分低いとき、(やや強引ですが)コイルのリアクタンスとくらべてR_{ccw}が支配的であると近似することができるので、

\sqrt{(R_{ccw}+R_{DC})^2+(2\pi f L_s)^2} \approx R_{ccw}

となります。これは、周波数に依存しない利得となりますから、

v_{fuzz} = \frac{Z_{in}}{Z_{in}+ R_{ccw}}

という式になります。これがボリュームを絞るほど、高域が残る鈴鳴り現象に繋がっています。

おわりに

入力インピーダンスの計算はかなり複雑でしたが、フィードバックにより入力インピーダンスが引き下げられることが分かりました。そして、この入力インピーダンスの低さがFuzz Faceの鈴鳴り現象に繋がっています。

次回は最適な動作点の計算方法について紹介したいと考えています。利得や入力インピーダンスの計算よりは簡単なのでお楽しみに。

Discussion