郵便システムで理解するTCP/IPの4階層
インターネット通信の基盤となるTCP/IPプロトコルは4つの階層に分かれていますが、抽象的で理解しづらい概念です。この記事では、身近な「郵便システム」に例えて各階層の役割と関係性を解説します。
TCP/IPの4階層とは
TCP/IPプロトコルスイートは以下の4つの階層から構成されています:
- アプリケーション層
- トランスポート層
- インターネット層
- ネットワークインターフェース層
これらの階層がどのように協働してデータを送受信するのか、郵便システムを例に見ていきましょう。
出典:『イラスト図解式 この一冊で全部わかるWeb技術の基本 第2版』(NRIネットコム株式会社 著, SBクリエイティブ, 2024年)
郵便システムに例えるTCP/IPの階層
1. アプリケーション層(町の様々なサービス)
町にある様々なサービスに相当します:
- HTTP: 一般郵便のやりとり
- SMTP: 特定形式の郵便(例:)
- FTP: 大きな荷物の配送
- DNS: 市役所の住所登録サービス
この層では「何をやりとりするか」が決まります。例えば、ウェブページを見る、メールを送る、ファイルを転送するなど、目的に応じた通信形式を選びます。
2. トランスポート層(郵便配達のルール)
配達員が荷物を運ぶ際の方法とルールに相当します:
TCP(信頼性重視の配達)
- 重要な契約書類を配達する場合の方法
- 特徴:
- 荷物が大きければ番号付きで分割して運ぶ
- 受取人からサインをもらい、確実に届いたことを確認
- 一部が紛失したら再配達する
- 順番通りに届ける
UDP(速度重視の配達)
- 広告チラシなどを配達する場合の方法
- 特徴:
- とにかく早くポストに投函
- 届いたかの確認はしない
- 紛失しても再配達しない
- 順番は保証されない
3. インターネット層(町の地図と道順)
配達員が荷物をどの経路で届けるかを決める層です:
-
IP: 住所システムに相当
- 「○○町△△番地」という住所(IPアドレス)で配送先を特定
- 最適な道順(ルート)を選んで配達
- 道路工事や渋滞があれば迂回路を探す
4. ネットワークインターフェース層(実際の交通手段)
実際にデータを物理的に運ぶ手段に相当します:
-
物理媒体と通信機器:さまざまな郵便配達手段
- イーサネットケーブル - 専用の高速道路を走るトラック
- Wi-Fi - 機動性のある配達バイク
- 光ファイバー - 超高速の新幹線
-
MACアドレス:各建物の固有番地
- 同じネットワーク内での正確な配達先を特定
- 「○○マンション201号室」のような詳細な宛先
-
フレーム:標準化された輸送コンテナ
- 発送元と配達先の情報が記載されたラベル付き
- データを適切なサイズに梱包して安全に運搬
この層は、上層で作られた指示や内容(メールや動画など)を、実際の電気信号や光、電波に変換して送信します。
データの流れを郵便局の例で表現
送信側(お客さん)からサーバー(相手)へのデータの流れ:
-
アプリケーション層:お客さんが郵便局のカウンターでサービスを申し込む
- 「この手紙を東京の田中さんに届けてほしい」
-
トランスポート層:郵便局員が荷物の配達方法を決める
- 「これは重要書類なので、追跡番号をつけて確実に届けます」(TCP)
- または「これは急ぎのハガキなので速達で送ります」(UDP)
-
インターネット層:集配センターで住所(IPアドレス)に基づいて配送ルートを決定
- 「東京まではこのトラック便で送り、そこから都内の配送センターへ」
-
ネットワークインターフェース層:実際に荷物を運ぶ
- 郵便トラック、バイク、自転車などで物理的に配達
受信側(サーバー)から送信側(お客さん)へのデータの流れ:
- ネットワークインターフェース層:配達員が荷物を持って到着
-
インターネット層:正しい住所に届いたか確認
- 「この住所で間違いないですね」
-
トランスポート層:荷物の中身が全て揃っているか確認
- 「全ての書類が揃っています」(TCP)
- (UDPの場合は確認せず)
-
アプリケーション層:受取人が荷物の内容を確認して対応
- 「依頼の内容を理解しました。返信します」
TCPとUDPの実際の使われ方
TCP(確実な配達)が使われるアプリケーション
- ウェブブラウジング(HTTP)
- メール送受信(SMTP, POP3, IMAP)
- ファイル転送(FTP)
- データベース接続
なぜ?:データの正確さが重要、少しの遅延は許容できる場合(例:銀行取引、重要な文書のやり取り)
UDP(高速な配達)が使われるアプリケーション
- ストリーミング動画(YouTube, Netflix)
- オンラインゲーム(反応速度重視)
- VoIP通話(Skype, Zoom)
- DNSルックアップ(ドメイン名解決)
なぜ?:速度が最優先、多少のデータ損失は許容できる場合(例:ライブ配信、オンラインゲーム)
まとめ
TCP/IPの4階層は、私たちの身近な郵便システムと多くの共通点を持っています。アプリケーション層(何を送るか)、トランスポート層(どうやって送るか)、インターネット層(どこへ送るか)、ネットワークインターフェース層(何で送るか)という各階層が連携することで、インターネット上のデータ通信が実現しています。
それぞれの通信の目的や要件に応じて、適切な配達方法(プロトコル)を選ぶことが、効率的で信頼性の高いデータ通信には重要なのです。
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