VibeEngineering ― “雰囲気で作る”を越えて、動かし続けるために決めておくこと
はじめに――試作はできた。でも明日も動く?
最近は、言葉で指示してアプリを形にするのが本当に簡単になりました。けれど「とりあえず動いた」まま広げると、ログも権限もテストも追いつかず、翌週には触れなくなる。そこで耳にするのが“VibeEngineering”という考え方。
これは“VibeCoding(勢いのプロトタイピング)”と線を引き、本番で回すための作法に重心を置くやり方です。端的に言えば、意図を言語化→境界を決める→観測できる形で配線する。そんな地味な段取りを、最初から前提にします。用語の背景や違いは、現場の声として整理が進んできました。(Simon Willison’s Weblog)
どこが“VibeCoding”と違うの?
“VibeCoding”は雰囲気でまず動かす側に振り切った言葉。一方“VibeEngineering”は、作ってから回すところまで責任を持つ発想です。
両者は敵対概念ではなく連続体。ただし、公的な解説でも「コードを理解せず受け入れる」姿勢は別物だと明確にされつつあります。**“楽しい試作”と“続く運用”**を、場面で使い分ければいい。(Simon Willison’s Weblog)
1. まず“任せる範囲”を言葉にする
最初にやるのは設定画面づくりではなく、一枚の約束です。
- 何を手伝ってもらうか(要約/変換/下書き などの“用途”単位)
- 触れてよい資料・触れてはいけない領域
- できあがりを誰がいつ検査するか
- 振る舞いを変える時の連絡経路
勢いで組み立てること自体は否定しません。ただ、任せる範囲を先に決めるのが“エンジニアリング”の差分です。プロトタイプ推しの文脈からも「本番は別物」という提案が出ています。(Simon Willison’s Weblog)
2. 指示は“意図→制約→例”の三段で軽く固定
長文プロンプトは要りません。意図(なぜ)→制約(してはいけないこと/長さ/語調)→入出力例(最小)の三段で十分。
文脈が増えても入れ子を深くしないのがコツ。深い構造は壊れやすく、後で直しにくいからです。これは“雰囲気で書く”スタイルへの反省として各所で指摘されています。(The New Stack)
3. “用途で分ける”接続――人ではなく役割で権限を区切る
アシスタントを1つに何でも載せると、事故の切り分けが難しくなります。**「要約専用」「変換専用」「照会専用」のように、用途=責任境界で接続を分けましょう。
境界を分ける発想は、VibeEngineeringを提唱する記事群でも“プロダクションで通る設計”**として強調されています。(The New Stack)
4. リポジトリに“語って”もらう――来歴と観測を最初から
自動生成の成果物ほど、来歴と観測を残します。
- どの資料を参照したか
- どの指示で作られたか
- だれが承認したか
最低限これだけ記録すれば、原因追跡ができる。VibeEngineeringの文脈では、リポジトリを読めるエージェントや観測の仕掛けが鍵だとされます。(The New Stack)
5. 小さく測る――“速い/当たる”の両立を数字で見る
評価はシンプルで構いません。固定の問いを3〜5個だけ用意し、
- 根拠付きで妥当と判断できた割合
-
体感レイテンシ(秒)
を毎週、同じ条件で測る。これだけで変化の兆しが見えます。周辺の議論でも、「勢い」から「継続運用」への移行で、この手の小さな回帰テストが推奨されています。(Simon Willison’s Weblog)
6. 運用の勘どころ
- 壊れ方を先に決める:「遅くなる」のは許す?「多様性が落ちる」のは?紙に書いておくと迷いません。
- 境界は増やしすぎない:用途ごとに分けるのは有効ですが、枝分かれが過ぎると保守が苦しくなる。
- 一次情報を追う:この領域は言葉の定義も実装も更新が速い。提唱記事やフィールドマニュアルは定期的に見直しましょう。(Simon Willison’s Weblog)
おわりに――“勢い”の先に、合意を置く
頼もしさは、勢いだけでは続きません。任せる範囲を言葉にする、用途で境界を分ける、来歴を残して小さく測る。たったこれだけで、スピードはそのままに、翌週も触れる状態を守れます。呼び名はどうでもいい。続く作り方を選ぶだけです。
参考
- “VibeEngineering”の位置づけ(VibeCodingとの線引き、実務視点)。(Simon Willison’s Weblog)
- “VibeCoding”の定義と社会的な紹介・議論。(ウィキペディア)
- “From Vibe Coding to Vibe Engineering”(本番運用の観点を整理)。(The New Stack)
- “Field Manual”(チーム運用でのチェックポイント集)。(Medium)
- 関連連載(現場ルール化の試み、歴史的背景の要約)。(Medium)
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