DORA 2025レポートより、AI開発の効果を増幅させる組織の条件
1. はじめに
Google DORAチームが2025年に発表した「State of AI-Assisted Software Development」レポートは、組織のパフォーマンスに与える影響について調査しています。今年は、特にAI支援開発ツールに焦点をあてています。
- https://cloud.google.com/resources/content/2025-dora-ai-assisted-software-development-report?hl=ja
- https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learning/announcing-the-2025-dora-report
Claude Codeをはじめとして、AIを使った開発支援ツールを多数導入したものの、プロダクトに対する良い影響がいまいち感じられないという方にとっての改善のヒントが散りばめられているように思います。
レポートの本文だけでも96ページあり、付録を合わせると142ページもあります。
コーディングエージェントを入れたあとにするべきこと(実は、入れる前でも考えておくべきこと)について、レポート内で比較的具体的に書かれているところを抜粋して、まとめてみました。
詳しくは本文をご覧ください。
2. AIは「鏡」であり「増幅器」である
レポートの核心的なメッセージは、AIは組織の真の能力を反映し、増幅するというものです。
AIは魔法の杖ではありません。既に機能している組織プロセスをさらに加速させる一方で、脆弱なプロセスや隠れた問題をこれまで以上に明確にします。
3. 調査結果(データ)
本文の96ページ中、48ページまでは、データの説明が中心です。エグゼクティブサマリにあるデータのみ抜粋します。
AIの影響の全体像
AI導入が主要な成果に及ぼす影響の推定値(信頼区間89%)

- 青の丸は、プラスの影響で値が大きい方が良いです。
- オレンジの丸は、マイナスの影響で値が小さい方が良いです。
AI導入によって、software delivery instability(ソフトウェア配信の不安定さ)が上がっている点は、マイナスであるものの、
- 個人の有効性
- 組織のパフォーマンス
- 価値ある仕事
- コードの品質
- 製品のパフォーマンス
については、プラスになっています。
個人の有効性が最も上がっている一方で、組織や製品やチームのパフォーマンスはそれほどでもありません。
その対策として、次の章からの改善策をまとめます。
4. バリューストリームマネジメント
ここからは、比較的具体的な改善方法です。
P.73~78の章です。
プロダクトに関わるチームが、現状を把握しやすくするためのバリューストリームマップを書き、ボトルネックを特定することが重要です。
下図はレポートにある一例ですが、割と多くのソフトウェア開発組織がこれに近しいワークフローになっていると思います。
自組織で考える場合も、この図からカスタマイズしていくのが手っ取り早いと思います。

本文より翻訳して引用します。
コンセプトから顧客まで全体システムをマッピングすることが目標ですが、一度にすべてに取り組む必要はありません。
重要なのは、最も影響を与えられる場所から始めることです。飛び込む前に、ワークフローを高レベルで見て主要な制約を特定し、本当のボトルネックではないプロセスの一部を最適化しないようにしてください。
たとえば、チームの最大の課題がプロダクトディスカバリーにある場合、それがより効果的な開始地点かもしれません。それでも、DORAが長年使用してきた強力で実証済みの開始点は、コードコミットから本番環境までのスコープです。
私たちがそこから始めるのは、プロセスのこの部分が最も容易に標準化され、効率のために調整できるためです。さらに重要なことに、これはチームが通常最も主体性を持っている段階であり、即座に影響力のある改善を行うことができます。
これは、主な目標が効果性を最適化することであるディスカバリー作業とは対照的です。このコアプロセスをうまく完了させることで、迅速な勝利が生まれ、より広範なプロダクトディスカバリーと顧客フィードバックのシステムに影響を与えるために必要な勢いと信頼性が構築されます。
とあり、AIの導入に大きく時間を割いたにも関わらず、組織の成果としてはイマイチだった場合、ボトルネックの特定をすることとそのために各種メトリクスを計測することがまず必要です。
それを踏まえて、ボトルネックに対して、AI(やAI以外も含めて)の活用ができるかを検討するのが重要と思われます。
やや背景の話になりますが、DORAのレポートで、ザ・ゴールで有名な制約理論 に触れています。
製品をデリバリするまでのボトルネックを特定し、それを解消することで、デリバリする機能のスループットを上げるという試みです。
5. DORA AIケーパビリティモデル
P.49~64 についてです。
P.64に行動指針をまとめているので、そのまま引用します。
DORAの調査により、スループット、コード品質、チームと組織のパフォーマンスといった成果に対するAI使用の効果は、以下の7つのケーパビリティによって一貫して増幅されることが明らかになりました。
- AIポリシーを明確化し、組織全体に周知する
AIに関する曖昧さは、導入を妨げ、リスクを生み出します。
許可されるツールと使用方法に関する明確なポリシーを確立し、周知することで、開発者の信頼を構築します。
この明確さは、効果的な実験に必要な心理的安全性を提供し、摩擦を減らし、個人の効果性と組織のパフォーマンスに対するAIのポジティブな影響を増幅させます。
- データを戦略的資産として扱う
組織のパフォーマンスに対するAIの利点は、健全なデータエコシステムによって大幅に増幅されます。
内部データソースの品質、アクセシビリティ、統合に投資してください。
AIツールが高品質な内部データから学習できるようになると、組織にとってのその価値は向上します。
地味でめんどくさいですが、社内のデータ整備はやはり大切なようです。
- AIを内部コンテキストに接続する
AIツールを内部システムに接続することで、一般的な支援を超え、個人の効果性とコード品質の向上を実現します。
これは、単にライセンスを調達するだけでなく、AIツールに内部ドキュメント、コードベース、その他のデータソースへの安全なアクセスを提供するためのエンジニアリング努力に投資することを意味します。
これにより、ツールが最大限に効果的であるために必要な、企業固有のコンテキストが提供されます。
これも2と同じように社内のデータ整備の重要さを説いていると思います。
- セーフティネットを受け入れ、強化する
AI支援によるコーディングは、変更の量と速度を増加させる可能性があり、それはまた不安定性の増加につながる可能性があります。
バージョン管理システムは重要なセーフティネットです。ロールバックやリバート機能の使用に熟練することをチームに奨励してください。この実践は、AI支援環境においてより良いチームパフォーマンスと関連しています。
GitやJujutsuを使いましょう。
- 作業項目のサイズを削減する
AIは大量のコードを生成することで個人の効果性の認識を高めることができますが、我々の調査結果によると、これは必ずしも最も重要な指標ではありません。
代わりに、成果に焦点を当ててください。
小さなバッチで作業する規律を強制することで、製品のパフォーマンスが向上し、AI支援チームの摩擦が減少します。
やや語弊がありますが、単独でユーザに影響がある最小単位のタスクで開発して、ちゃんとデプロイするところまで持って行きましょうということだと思います。
- 製品戦略にユーザーのニーズを中心に据える
個人はAIを採用することで、自身の効果性が大幅に向上する経験をすることができます。
しかし、ユーザーのニーズが焦点になっていない場合、間違った方向に素早く進んでいる可能性があります。
我々の調査では、AI支援開発ツールの採用は、ユーザー中心の焦点を持たないチームに害を及ぼす可能性があることがわかりました。
逆に、ユーザーのニーズを製品の北極星として維持することは、AI支援開発者を適切な目標に導き、AIを使用するチームのパフォーマンスに非常に強い正の効果をもたらします。
プロダクト開発の基本のはずです。
- 社内プラットフォームに投資する
質の高い社内プラットフォームは、組織のパフォーマンスに対するAIの正の効果を増幅させるための重要な推進要因です。
これらのプラットフォームは、AIの利点が組織全体で効果的かつ安全にスケールするために必要なガードレールと共有機能を提供します。
実質プラットフォームエンジニアリングの話です。P.65~72 で1章まるまる使って解説していますので、詳細はそちらを参照してください。
6. AIの鏡:AIは組織の真の能力を反映し増幅する
P.79~88 が該当の章です。
最終章なので、 4. バリューストリームマネジメント と 5. DORA AIケーパビリティモデル と重複する部分もあります。
やや抽象度が高く、どちらかというと、マネージャー以上向けの話です。
AI導入を成功させるクロスファンクショナルチームの作り方
AI導入は単なるツール導入ではありません。組織全体のワークフローを見直し、ボトルネックを特定する取り組みです。そのために小規模でクロスファンクショナルなワーキンググループを立ち上げることが最も効果的です。
理想的なメンバー構成は、エンジニア、PM、データエンジニア、運用、セキュリティ担当者で構成します。実務者だからこそ、内部からシステムをマッピングし、真のボトルネックを発見できます。
成功の前提として、経営層のスポンサーシップが不可欠です。これにより戦略的重要性が組織全体に伝わり、必要なリソースが確保され、発見から実行への道筋が明確になります。
システム思考で考える必要があります。組織は複雑なシステムです。「コード生成を速くする」という1つのノードを改善しても、レビュー、デプロイ、品質管理などの隣接するコンポーネントが並行して進化しなければ、全体のパフォーマンスは改善されません。
AI時代の組織変革:段階的アプローチの重要性
ワーキンググループの活動を通じて、AI時代に必要な新しいスキルと役割が明らかになります。開発者がAIツールに作業を委任するにつれて、検証(AIの出力を評価)、オーケストレーション(AIと人間の作業を調整)、ワークフロー設計(AI活用を前提としたプロセス設計)などのタスクが中心的になっていきます。
組織はこれらの新しい役割を明確に定義し、適切なサポート体制を整え、インセンティブを設計する必要があります。ツールの使い方だけでなく、AIが開発作業の性質をどう変えるかについてのトレーニングを提供することが重要です。
これらの変更は自動的に、または一度にすべて起こるわけではありません。意図、オーナーシップ、持続的なサポートが必要です。しかし、最初から完璧である必要はありません。
組織が小さく始め、目的を持って投資し、役割を超えた共有された責任を作り出すとき、勢いを構築できます。一歩ずつ、ケーパビリティごとに、変革が根付いていきます。完璧を求めるより、継続的な改善を重視することが、AI時代の組織変革を成功させる鍵となります。
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