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認知度高まるセルフメディケーション もっと気軽に薬局に相談を

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近年耳にする機会が増えた「セルフメディケーション」をご存じでしょうか。体に不調を感じたら直ちに医師を受診するのではなく、医師の処方箋がなくても購入できる市販薬(OTC医薬品)を活用して、自ら手当てをしようという取り組みで、世界保健機関(WHO)では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義しています。厚生労働省も「セルフメディケーションの推進は国民の自発的な健康管理や疾病予防の取り組みを促進するとともに、医療費の適正化にもつながる」として推進しています。

啓発イベントで盛況だったセルフ健康チェック
 筆者の地元である東京都内では、毎年秋に啓発イベントを開催しています。昨年10月、神田明神(千代田区)で開かれたイベントでは、企業や関連団体のブースに加えて、来場者に自分の体への関心を持ってもらおうと「健康チェックコーナー」を設けました。

これはストレスや血管年齢、肌年齢、骨健康度、脳年齢などを測定する機器をそろえたコーナーです。これらの機器は遊び感覚で楽しむ検査機器で、その結果を元に診断を下せるような医療機器ではありません。それでも、ストレスや血管年齢を試してみて、脈拍の乱れがわかった人が、後に循環器科を受診して不整脈の再発を発見できたというケースがありました。その人からは手術を受けることになったというお礼の連絡がありました。

健康チェックコーナーには、指先に針を刺して1滴の血液を採取してHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を測定する検体測定室も設置しました。HbA1cは過去1~2カ月の血糖を表す指標で糖尿病の診断に用いられます。こちらの検体測定室は先述の遊び感覚の検査機器とは異なり、医師の診療に使用しないという条件で、利用者本人が採取した検体(血液など)を薬剤師などの資格者が検査するサービスです。簡単にできるので、利用者がすぐに自分の体の状態を把握できるうえに、直ちに健康診断などを勧められるため、病気の早期発見につながると期待されています。

HbA1cは5.6%未満であれば、正常値の範囲内とされ、6.0~6.4%が糖尿病の可能性が否定できない「境界型」、6.5%以上だと糖尿病が強く疑われる「糖尿病型」と診断されます。今回の検査では2日間で約200人のHbA1cを測定しました。その結果、糖尿病治療歴がないにもかかわらず7%前後のHbA1cの人が見つかり、受診を勧めることができました。

5年前の調査よりも「実践」の割合が上昇
東京・神田明神で開かれたセルフメディケーションの啓発イベントの様子=筆者提供
 昨年は、健康チェックコーナーの参加者208人にセルフメディケーションに対する意識調査を実施しました。参加者の性別は男性27人、女性180人、回答しない1人、平均年齢は47.1歳。

「セルフメディケーション」という言葉を「知っている」は67.8%、「実践している」は65.1%でした。2019年の調査では「知っている」が62.9%、「実践している」は34.2%で、両者の差が倍近かったのに比べると、かなり近づいていることがわかりました。

その要因として考えられるのが20年からの新型コロナウイルス禍です。感染が広がった際に、自宅に解熱鎮痛薬や総合感冒薬を買い置きしておき、自身の判断で利用した人が増加したと考えられます。またOTC医薬品を活用して税制優遇を受けられるセルフメディケーション税制の認知度が高まったことも影響しているでしょう。(参考:日本薬剤師会で筆者発表:「一般生活者のOTC医薬品備蓄状況及び薬剤師等の活用度に関するコロナ禍前後での比較調査研究」より)

調査結果にメーカーも注目
 調査ではそのほか、「風邪」「消化器症状」「けが」「頭痛」「花粉症」の五つの代表的な症状において、どういう行動をとるかを尋ねました。その結果、重度の症状に対しては医師の診察を受ける傾向が強く、一方で軽度の症状に対してはOTC医薬品を使用する割合が高いことがわかりました。

また、症状の軽度・重度の判断は、個人の経験や知識に基づき判断することが多く(55.3%)、次に非医療従事者である身近な人への相談(49.3%)、医療従事者への相談(39.0%)の順でした。医療従事者への相談は39.0%に留まっている一方で、60.6%が相談しやすい相手であると考えていることが明らかとなりました。

この結果は、ごく当たり前のことのように感じられるかもしれません。ただ漠然と感じられていたことが調査で証明された意義は大きく、今後はその行動を選択した人の属性を解析することで、より効率的なセルフメディケーションの普及につなげられるのではないかと考えています。

この調査結果を3月27~29日に、福岡市で開かれた日本薬学会第145年会で発表しました。日本薬学会は大学、企業、行政、医療関係者など薬学に関係する人たちが参加する学術団体で、1880年に誕生した、我が国では最も古い学会の一つです。

福岡市で開かれた日本薬学会でポスター発表された研究結果=筆者提供
 医療系薬学部門でポスター発表(研究内容をまとめたポスターの前で発表するプレゼンテーションの一種)をしましたが、複数の市販薬メーカーの方から興味が寄せられました。「セルフメディケーションを進めるためにどうしたらいいか」といった質問があったほか、「今後、共同研究したい」という申し出もありました。

薬局側も相談しやすい環境づくりが必要
 調査結果で医療者への相談が少なめだったのは、体調不良の時に相談の目的だけで医療機関を訪れることへの戸惑いや煩雑さがあると考えられます。薬局については、普段からも「処方箋を持たずに入りにくい」「薬剤師が忙しそうで相談しにくい」という声も聞きます。ただそうした理由で敷居を高く感じているのはもったいないでしょう。症状の軽度・重度の判断には専門的な知識が必要な場合もあります。

福岡市で開かれた日本薬学会に出席した筆者=筆者提供
 それには利用者の意識改革だけでなく、薬局の側にも相談しやすい環境を整える必要があるでしょう。筆者の薬局では、近隣の方が気軽に足を運べるよう、曜日替わりで相談教室や体験教室を開いています。そのかいあってか、相談に来局されたり、LINE(ライン)で相談されたりする方が多くいらっしゃいます。相談いただければ、症状にあわせたOTC医薬品を販売できますし、その症状が専門の医療機関の紹介もできます。

ぜひ普段から気軽に相談できる薬局や薬剤師を見つけてほしいと思います。

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