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Google Opalは「劣化Dify」じゃない。実際に使って分かった戦略的立ち位置と最適活用法

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はじめに

2025年7月、Google Labsは実験的なノーコードAIツール「Opal」を米国でベータリリースしました。その後、10月には日本を含む15カ国に展開され、AIワークフロー自動化市場に大きな波紋を広げています。
という事で触ってきたり、諸々界隈を見つつ調べつつでリンクとかまとめてたら時間かかっちゃったし、三連休が結構解けました。
だが、楽しいからヨシ!という事で・・!

素直な感想と言いますか、国内でも海外でも技術コミュニティでは「出来損ないのDify」「n8nの劣化版」といった厳しい評価も散見されます。
まあ、そりゃそう。
触った感じ的に別にこれDifyを既に導入しているとか、やってるよ!なら別に乗り換える必要あるか?は疑問は出ました。

本当にOpalは「劣化版」なのか?実際に使ってみて分かったのは、Opalは劣っているわけではなく、明確に異なる目的と戦略を持っているということでした。
やっぱり「Googleのサービス」って根本を感じた、そんな感じです。
大好きですし、もうGoogle信仰と言われれば、そうです!と答えるくらいには、私の社会人人生ずっと一緒なのもありますが。
ただ、まあ既に「AIをしっかりやっている」「AIを使って事業をやってる」という人へ向けたもんではまあないか、という感じです。

Opalとはそもそも何か?「Vibe Coding」という新しいアプローチ(Google的に)

Opalの最大の特徴は、Googleが「Vibe Coding」と呼ぶアプローチを採用している点です。

これは、ユーザーが自然言語でアイデアを指示するだけで、AIが自動的にマルチステップのワークフローを構築し、それをすぐに利用可能なミニアプリとして提供するというものです。

X(旧:Twitter)でも「出たよ!」と、お知らせしてたので一応貼っておきます。
https://x.com/GoogleLabs/status/1975627276575498338

Opalのコア機能

  • 自然言語駆動:望む機能やロジックを平易な日本語で記述するだけ
  • シンプルな三要素構成:「入力(User Input)」→「AI処理(Generate)」→「出力(Output)」
  • 即アプリ化:作成したワークフローは自動的にアプリとして公開され、URLで共有可能
  • Google AIエコシステムとの統合:Gemini、DeepResearch、Veo、Nano Bananaなどが利用可能

簡単に言えば、Gems(Geminiアプリ内で作れるカスタムAIアシスタント)の強化版です。Geminiアプリでは対応しきれない複数ステップの処理を、ノーコードで実現できます。

Gemsでどんなことができるのか掘り下げたい方は、こちらの記事が綺麗にまとまっているので参考にしてみてください。

「劣化版」と言われる理由を考える

Opalへの批判は、確かに一定の正当性があります。しかし、それらは戦略的なトレードオフの結果として理解できます。
というか、多分「エンジニア向け」ではなくもっと「ライト層」をターゲットとしている、という印象です。

批判1:Geminiモデルに固定されている

これは最も大きな批判点です。技術者やプロンプトエンジニアにとって、タスクの性質に応じてClaude、GPT-4o、Geminiを使い分けられないのは確かにデメリットです。
というかマジで用途によって適正モデル違うよねぇ、なんて私も過去言及したような気がします。

Difyn8nのようなマルチモデル対応プラットフォームと比較すると、この制限は結構キツく感じます。
というか慣れているなら、それこそ◎◎で良くないですか?になると思う。

しかし、これには理由があります。

Opalの核となる「Vibe Coding」(自然言語によるロジックの自動生成)を実現するには、基盤となるLLMがワークフローロジックビルダーの動作と出力形式を完全に把握している必要があります。

Geminiに固定することで、Opalはワークフローの自動変換の信頼性と速度を最大化し、非技術者向けのユーザー体験の安定性を担保しています。

これは機能の欠陥ではなく、「非技術者が迷わず使える」というユーザー体験を最優先した結果だな、と感じましたね。
というか意図してるだろうな、というのもあるかな。

批判2:連携機能が限定的

n8nが1,100以上のアプリケーション連携を誇るのに対し、Opalのネイティブ連携はGoogle WorkspaceやGCPに偏っています。

これに対し、GoogleはZapierやTray.ioとの接続を公式にサポートしています。つまり、OpalはAIロジックの構築という核心的な機能に集中し、外部のSaaS接続はZapierに委任する戦略を採用しているのです。
なんでもかんでも連携しなくても、正直今までのというか既に他のGoogleサービスが強すぎるのもありますね…。
Google、いつもありがとう。
Google Workspaceさえ押さえておけば、結構なものが良い、まであるもんなあ…と私も思ったりしますもの。
ピンポイントで必要なものはあるので、全能神ではないですがね。ゼウスではないはず、Googleと言えど。
独禁法もありますしね。

批判3:ベータ版のため不安定

複雑なドキュメント処理でエラーが発生するなど、安定性の問題は確かに報告されています。

ただし、Googleはリアルタイムエラー表示やステップバイステップデバッグ機能の強化、並列処理の導入など、迅速に改善を進めています。
これは仕方ないよ、だってベータだものって思います。
むしろベータでこれをお出しされてるのよね、ってのがさすがGoogle。って思うくらい。甘めに見てるかもだけど。

実際に使って分かった3つの戦略的強み

Opalの真の価値は、そのシンプルさから生まれる戦略的な強みにあります。

強み1:PoCの圧倒的なスピード

Opalの公式レビューによれば、アイデアから動作するプロトタイプまでを60秒以内で実現できます。
というか、形にしたいもの、やりたい事が明確で複雑でなければマジで早い。
というか、日本語の論理文章で整理出来れば日本語だけで、サッと出来そう。
だいぶ個人の力量は問われるかもしれないですが、それでも非エンジニア層には各段に敷居が下がったな、というレベルな気がしている。
恐ろしい子、、、なんて思いますよ。

この高速な試行錯誤サイクルは、大規模なSaaS構築ではなく、内部向けの研究ワークフローや特定のタスク自動化アプリの構築に最適化されています。

従来のノーコードツールがノード接続やUI操作のスキルを要求したのに対し、Opalは学習コストをゼロに近づけたのかもしれない、と普通に畏怖しましたよ。

強み2:Googleエコシステムとの「摩擦ゼロ」統合

Opalは単なる機能連携を超え、Google Workspaceとのディープな統合を提供します。

  • Google Docs、Sheets、Slidesへの直接出力
  • Google Driveからのシームレスなファイル読み込み
  • Google Groupsを用いたアクセス管理

複数のAPIキーや複雑な認証設定なしに、Googleアカウント認証だけで最先端のマルチモーダルAI機能を組み合わせられるのは、Googleエコシステム内で業務を行う企業にとって圧倒的な優位性です。
これマジで強い。
世の中の企業もGoogleアカウントは持ってる、とか。Googleサービスで基本的に仕事を回して、とかだと思うので。。。
チャットサービスだけ別とかはあるかもだけど。

強み3:エンタープライズへの段階的な移行パス

Opalの最も重要な戦略的立ち位置は、Googleのエンタープライズ製品への段階的な移行パスとして機能することです。

Gem(単一プロンプト)
 ↓
Opal(複数ステップのワークフロー)
 ↓
Gemini Enterprise / Agent Builder(本番環境)

Gemini Enterpriseは、Opalが意図的に欠いているバージョン管理、監査ログ、高度な評価、ガードレールといったエンタープライズ必須の機能を備えています。
Googleサービス内でステップアップが出来るという風にも取れるな、と。

Opalは無料で(または低コストで)ユーザーにAIワークフロー構築の成功体験を提供し、アイデアが成熟した時点で有料のエンタープライズ製品への移行を促す戦略的ファンネルとして設計されているのです。
これすごくないです?ユーザーの立ち位置でちゃんとステップアップ出来るようになってる。
あと資金力。(金が必要なのはどこもそうなんよっていう悩みは万国共通よね…)

他ツールとの比較:目的が違うから優劣じゃない

観点 Opal Dify n8n Agent Builder
設計思想 AI活用の民主化 AIネイティブアプリ開発 システム連携自動化 エンタープライズAI
モデル Gemini固定 マルチモデル対応 外部API経由 Gemini/Google AI
連携範囲 Googleエコシステム + Zapier LLM/RAG中心 1,100+アプリ 企業データ/監査
対象ユーザー 非技術者 AI開発者 技術者/SRE 大企業
本番適性 低(PoC向け) 中〜高 最高

Opal vs Dify:AIロジックの「誰が作るか」

Difyは、RAGパイプラインや高度なエージェント戦略の構築に重点を置いた「AIエンジニアリングプラットフォーム」です。

根本的な差異は、Difyがユーザー(エンジニア)にAIのロジックを設計させるのに対し、OpalはAIにロジックを生成させる点にあります。
なので、エンジニアリングとかを意識させにくいのは、Opalにちょっと優位があるかも、と思う箇所。
でも、しっかりきちんと社内で活用していくとかを考えると、細かい所にもしっかり手が届きかつモデルの柔軟性を考えるとまだDifyかなあ…と。
いやでも正直もっと遅く(1年後とか数年後とか?)にAI活用したい、とか金をかけるのが絶対に嫌!とかなら、Google Opalで良いんじゃないですか、とは言いたくなるかも、とかとか。
本当にどのタイミングで、どれくらい真剣にAIを活用するか、とか、うーん現状だと個人的な意見ならDifyの方が良いと思う、けどやっぱりGoogleっていう名前のブランドへの信頼感はあるから上の人達に導入提案とかするなら、とかぐるぐるする所ですね。

Opal vs n8n:自動化の対象領域の違い

n8nは、ITシステム間のデータ移動とプロセスを自動化するための汎用的なツールです。

n8nが「システム統合のためのワークフロー」を提供するのに対し、Opalは「AIの思考プロセス(マルチステッププロンプト)の可視化と迅速なアプリ化」に特化しています。
n8nは個人でちょこっと触ったことあるけど、絶妙に好みに合わないとかいう感情論なんでこの辺りの知見強めな人はコメントとかで情報共有もらえるとHappyです。

ターゲット層と自動化の対象領域が根本的に異なるな、とは思ってます。

どんな時にOpalを選ぶべきか

Opalが最適解となるのは、モデルの柔軟性よりも、スピード、シンプルさ、お金、Googleエコシステムとの親和性が優先される以下のケースです。

Opalを選ぶべき場面

  • Googleエコシステム内でのPoC:Gmail、Drive、Docs、Sheetsなど、Google Workspace内での情報収集・要約・レポート生成
  • 非技術者が主体のAI活用プロジェクト:プログラミングや複雑な設定を伴わずにAI活用を開始したいマーケティング、人事部門、大きすぎない企業(中小企業で従業員も少なめ)
  • アイデアの超迅速な検証:「このタスクはGeminiで実現できるか?」を数分で検証し、失敗しても損失が少ない開発スタイル
  • Google独自のAIモデルの試用:DeepResearch、Veo、Nano Bananaなどを簡単に試したい場合

Dify/n8nを選ぶべき場面

  • モデルの使い分けが必要:Claude、GPT-4o、Geminiを適材適所で使いたい
  • 本番環境での安定運用が必須:企業利用で選ばれているのはやっぱりここが重い
  • 複雑な外部連携が必要:SalesforceやSlackなど、多様なビジネスツールとの連携
  • 高度なRAGやエージェント戦略の実装

まとめ:Opalは「劣化版」ではなく「入口」

Google Opalが「劣化Dify」であるという批判は、Opalの戦略的立ち位置を誤解した結果です。

Opalの制約は、意図的にAIワークフロー構築の「入口」を極限まで下げ、非技術者が自社の業務でAIを試行錯誤できるように設計された戦略的民主化ツールなのです。
OpenAIがChatGPTでAIとチャットすることの体験を人類にさせたのなら、Google OpalはAIワークフローを人類に体験させる、という事なのかもしれない。

モデルの柔軟性という点では確かにDifyやn8nに劣ります。しかし、それは目的が違うから全然構わないと思います。

  • Opal:AIワークフローの最初の一歩、PoC、Google製品への誘導
  • Dify/n8n:本格的なプロダクション運用、複雑な要件への対応

全てのツールをマスターする必要はありません。用途とスキルレベルに応じて使い分ければいいのです。
エンジニアがフロントとバックに別れるのとそんなに大きな違いはないのかもなあ、なんて。

AIワークフロー構築の競争軸が「機能の多さ」から「UXのシンプルさ」へと移行する中で、Opalは「Vibe Coding」という新しいパラダイムを提示し、AI開発の民主化を加速させる重要な役割を担っています。

もしあなたが何も触ったことがないなら、まずはOpalから始めてみてください。そこで「やっぱりモデルを使い分けたい」と思ったら、Difyやn8nに移行すればいい。

その段階的なアプローチこそが、Opalの提供する真の価値なのかもしれません。
でも触って思いましたけど、非エンジニアにはこれくらい敷居が低い方がいいのかもなあ、と。
まず一歩やってみよう、はこれくらい敷居が低くないとキツいか…?どうなんだ、とも思います。


参考資料

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