OSSのマルチエージェントシステムで18本のBotを動かすまで — multi-agent-shogun Bot運用体制の全容
はじめに
「自動売買Botを1本作ったはいいが、管理が追いつかなくなってきた」
仮想通貨Botを運用していると、こういった壁にぶつかります。Bot数が増えるにつれて、バックテスト結果の管理・実行ログの監視・収益集計など、やることが雪だるま式に増えていきます。
私はこの問題を解決するために、OSSのマルチエージェントシステム「multi-agent-shogun」を導入・カスタマイズしました。現在このシステムを使って18本のBotをペーパートレード環境で運用しながら、本番移行に向けた検証を進めています。
この記事は 「なぜマルチエージェントシステムでBot運用するのか」「どんな体制で動いているのか」 を技術者向けに解説するオーバービュー記事(Vol.0 / 序章)です。Vol.1から始まる本編では、実装・バックテスト・運用・AI活用の4領域を深掘りしていきます。
multi-agent-shogunとは
multi-agent-shogun (GitHub: yohey-w/multi-agent-shogun)は、おしおさん(yohey-w)が作成・公開しているOSSのマルチエージェントフレームワークです。筆者はこのリポジトリをforkして運用しています。
Claude Code(Anthropic)を各エージェントのランタイムとして使用し、複数のAIエージェントがtmuxセッション上で並列協調動作します。エージェント間の通信はファイルベースのメールボックス方式で実装されており、人間への通知はntfyを通じてスマートフォンに届きます。
エージェントの役割分担
システムは4種類のエージェントで構成されています。
| エージェント | 役割 |
|---|---|
| Shogun(将軍) | 最高意思決定者。戦略立案・最終承認 |
| Karo(家老) | 統括管理者。タスク分解・足軽への指示・進捗管理 |
| Ashigaru(足軽) | 実装担当。コード生成・スクリプト実行・分析 |
| Gunshi(軍師) | 分析・QC担当。バックテストレビュー・品質チェック |
私はこのOSSを導入・カスタマイズして、仮想通貨Bot運用に特化した体制を構築しました。
なぜマルチエージェントシステムでBot運用するのか
手動管理の限界
Bot数が増えると、以下の作業が積み重なっていきます。
- 毎日のPL(損益)集計と記録
- バックテストの実行と合否判定
- ログファイルの異常監視
- 新しいBot候補の調査・実装
- ポジション状態の確認とアンマッチ検出
これを人間が1人でやると、本業や他のことに割ける時間が削られます。特に 「監視作業」 は定型的で認知負荷が高い割に、付加価値が低い作業です。
エージェントが解決すること
multi-agent-shogunを導入すると、以下の作業をエージェントに委譲できます。
足軽(Ashigaru)が担当:
- Bot実装・デバッグ
- バックテストスクリプト実行・結果記録
- 日次PL集計の自動実行
- ログ異常検知アラートの実装・運用
軍師(Gunshi)が担当:
- バックテスト結果の合否判定レビュー
- 新戦略のブレインストーミング(複数視点からの独立分析)
- 月次Bot入替の判定分析
家老(Karo)が担当:
- 足軽へのタスク割り当てと優先順位管理
- 進捗管理・ダッシュボード更新
人間(殿)は 意思決定と承認 に集中できます。本番移行の判断、リスク許容度の設定、戦略の方向性など、AIに任せにくい判断を担当します。
Bot運用体制の現状
稼働Bot一覧
現在、GMOコインのAPIを使ってPythonで18本のBotをペーパートレード環境で稼働させています。Botは大きく3種類に分類されます。
シングルポジション型(単一ポジション管理)
価格ブレイクアウトやテクニカル指標を使ったシグナル型のBotです。1度に1ポジションのみを保有します。
- ETH/JPY: Donchian(48h)・Volume Breakout・BB+ADX+MA100・CCI Trend
- BTC/JPY: Donchian(96h)・Keltner Breakout・CCI Trend
- XRP/JPY: CCI Trend
バックテスト合格基準は厳格で、IS期間(2022〜2024年・36ヶ月)でPF≥1.20、OOS期間(2025年・12ヶ月)でPF≥1.00、OOS/IS比≥0.7、取引数≥50(OOS単独≥10)、DD≤25%、Calmar Ratio≥1.0を要求しています(手数料: GMO Taker 0.05%込み)。この基準を現時点でクリアしているのは ETH/JPY Donchian(48h) の1本です。
マルチポジション型(複数ポジション同時保有)
複数のエントリーポイントに注文を並べる手法です。グリッドトレードや増分建てなど、含み損を許容しながら相場の往来を取る戦略が中心です。
- ETH/JPY: グリッドトレード、増分型
- XRP/JPY: グリッドトレード
- BTC/JPY: グリッドトレード、増分型、ピラミッディング、DCA積立
FX型
AUD/JPY向けのBotです。グリッドトレードと増分型の2本体制で動かしています。
Tier分類と本番移行計画
全Botはバックテスト結果と実績に基づいてTier分類されています。
| Tier | 条件 | 移行方針 |
|---|---|---|
| Tier 1 | BT合格 + 取引≥10 + PF≥0.8 | 1/2ロットで本番移行 |
| Tier 2 | BT合格 + 損失なし + 取引<10 | 1/4ロットで条件付き移行 |
| Tier 3 | 損失発生 | 延長・経過観察 |
旧基準ではTier2が5本存在しましたが、2026年4月16日のBT基準改訂(X案:IS36ヶ月+OOS=2025年+手数料込み)で全Bot再評価した結果、Tier2=1本( ETH/JPY Donchian(48h) )に絞り込まれました。残りはBT再挑戦待ち(bt_pending)またはペーパートレード中です。本番移行は2026年5月14日を予定しており、BT基準をクリアした ETH/JPY Donchian(48h) を先頭に単独で移行します。
3層監視アーキテクチャ
稼働中のBotは3層の監視体制でカバーしています。
L1(Bot内蔵): 最大ドローダウンが閾値を超えると自動停止します。Botが自律的に自分を止める仕組みです。
L2(cronによる定期監視): 1時間ごとにログファイルの更新時刻をチェックします。2時間以上更新がないBotがあればntfyで通知が届きます。
L3(日次サマリー): 全Botの収支集計とポジション reconcile(GMOコイン APIの実際のポジションとBotの記録を突き合わせる)を行います。
この3層設計は、 2026年4月のサイレント停止インシデントを経て確立 しました。詳細は連載第2弾で解説します。
連載で扱う4領域
この連載では、Bot運用を構成する以下4つの領域を深掘りしていきます。
領域1: 実装(GMOコインAPI・Bot設計)
GMOコインのREST APIとWebSocket APIを使ったBot実装の詳細を解説します。
- GMOコインAPIの認証・レート制限・エラーハンドリング
- シングルポジション型Botの設計パターン
- マルチポジション型の注文管理ロジック(増分建て・ピラミッディング)
- cronによる定期実行とログ設計
領域2: バックテスト(合格基準・評価フレームワーク)
「どうすれば過学習を避けられるか」という問いに対するアプローチを共有します。
- IS/OOS(In-Sample/Out-of-Sample)2段階評価の実装
- PF・Calmar Ratio・OOS比率(≥0.7)を使った合否判定ロジック
- Bot種別ごとの異なる基準(単ポジ / マルチポジ / DCA)
- Alphaマイニング: エージェントが自律的にBot候補を生成・評価するパイプライン
領域3: 運用(Tier分類・ポジション管理・IC Monitor)
稼働Botをどう管理するか、実運用での知見を共有します。
-
bot_registry.yamlによる統合管理(単一ソース・オブ・トゥルース) - Position Reconcileの設計(ポジション不一致の検出と対処)
- IC Monitor: Bot間の相関を監視して動的ロット調整を行う仕組み
領域4: AI活用(multi-agent-shogunによる自動化)
マルチエージェントシステムをBot開発にどう活用するか、具体的な事例を紹介します。
- Alphaマイニングパイプライン: エージェントが自律的にBot候補を生成・BTを実行・合否判定
- 軍師によるBTレビュー: 人間が見落としやすいパターンをエージェントが検出
- cron×エージェント協調: 深夜の自律実行フロー設計
現在の収益状況と目標
ペーパートレード開始からの累計収益はプラスで推移しており、黒字化に向けて稼働中です。具体的な数値は月次レポートの記事で公開予定です。
本番移行後は、Tier1 Botが育つにつれて段階的にロットを増やしていく予定です。また、アルファマイニングパイプラインを通じてBotの補充・入替を継続します。
この連載で学べること
この連載は、以下のような方を想定読者としています。
- Pythonで仮想通貨Botを作っているが、管理が追いつかなくなってきた
- バックテストが「本当に正しいのか」自信が持てない
- AIエージェントをBot開発に活用してみたい
- ペーパートレードから本番移行する際の判断基準を知りたい
コードの実装例、バックテストの設計思想、運用中に発生したインシデントの詳細まで、実際の運用経験をもとに書いていきます。「教科書どおりに作ったのに動かない」「バックテストは優秀なのになぜ本番でうまくいかないのか」といった問いへの答えを、実例から共有します。
次回予告
次回 Vol.1 では、 「11本のBotが約1週間気づかれずに止まっていたインシデント — 検知から対応完了までの2時間の記録」 を詳しく解説します。実際に何が起きたか、どう気づいたか、何を改善したかを一次ソースから紐解きます。
連載記事一覧
- Vol.0(本記事 / 序章): OSSのマルチエージェントシステムで18本のBotを動かすまで
- Vol.1: 11本のBotが約1週間気づかれずに止まっていたインシデント — 検知から対応完了までの2時間の記録
- Vol.2以降: 実装・BT・運用・AI活用の各領域を深掘り(随時公開)
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OSSのマルチエージェントシステム「multi-agent-shogun」はおしおさん(yohey-w)が作成・公開しています。筆者はfork版を使用しています。
GitHub(オリジナル): https://github.com/yohey-w/multi-agent-shogun
Discussion
【注意】multi-agent-shogunのオリジナルはおしおさん(yohei-w)で,本記事で紹介されているのはforkされたリポジトリです.
ご指摘ありがとうございます。記事を修正しました。