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【CanSatしくじり先生】ナイロン線溶断をニクロム線→カーボン抵抗に変更した失敗

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※以下の文章は3年前のCanSat大会,ARLISS2022出場後に部内向けに書いた記事をほぼそのまま掲載している物です.公開時点で情報が異なる可能性がありますが,ご了承ください.

概要

FUSiONのMission2、ブラックロック砂漠でのARLISSの開発におけるローバーの設計思想の1つに「スピードで多少の障害物を押し切る」というものがありました。

ARLISSでは1~3km程度も走行を行わなくてはいけないため、タイヤの形状を複雑にし踏破性を上げようとすると、ブラックロック砂漠の大半を占める平面地での走行効率の低下を招いてしまうため、極力シンプルなタイヤで走行性能を最大化することが理由です。

パラシュートを機体から切り離すためにはニクロム線を使うのが定石だったのですが、走行性能を上げるために開発の中盤でLiPoバッテリーを4セルに変更したためニクロム線が過剰に発熱し、発火や機体の熔解に繋がったため、身近にあったものでニクロム線の代わりになるものを探し、カーボン抵抗が採用されました。

実際にカーボン抵抗と溶断するナイロン線を使って実験をしたところ、抵抗値を適切に選べばほぼ百発百中で成功したため、カーボン抵抗を溶断素子として採用しました。

ARLISSでの結果

ブラックロック砂漠付近は日本とも気候や湿度が大きく異なるため、宿で、そして現地で機体審査をする直前に、繰り返し実験を行い溶断に成功したため、ニクロム線に仕様を戻すことなく投下を行いました。


……しかし、現地でのパラシュート分離は不発

その後の解体デバッグを行った結果、本来であれば燃えて真っ黒になるはずの抵抗の、一部分しか焦げていないことが確認できました。

カーボン抵抗の発火原理

帰国直後、今回のカーボン抵抗燃焼不発事故の原因を探るための実験を行いました。

ここから先を読み進める前にYoutuberイチケンさんの以下の動画を見ると理解が深まるかもしれません。
https://www.youtube.com/watch?v=P6s0WI7jkKM

ARLISSで使用したものと同じ型番の抵抗を安定化電源に繋いで実験を行います。発火の様子を左上から右下にかけて表示しています。

  1. はじめはカーボン抵抗の中央付近の1点が赤く光り始めます。
  2. 光始めた点が発火し、炎が噴き出します。
  3. 噴き出した炎がカーボン抵抗を覆う樹脂全体に燃え広がり、大きな炎を上げます
  4. 最終的には両端の一部を除き、カーボン抵抗のほとんどが黒く燃え尽きます。

このようにカーボン抵抗は、一点の発火を皮切りに、全体へ燃え広がっていきます。

失敗の原因

様々なパターンを変えて実験した結果、今回の抵抗溶断の失敗は2→3の間に原因があることが分かりました。

失敗の条件は以下のようにまとめられます。

💡
1.カーボン抵抗に対し一定以上の強さの気流が垂直に発生していること
2.気流に対し発火点が風上45°付近に位置すること

上の条件が揃ってしまうと、カーボン抵抗から発火しても、上手く炎が燃え広がらずに溶断に失敗するようです。カーボン抵抗の発火点も(部品をCTスキャンできれば別ですが)確率的ですし気流もコントロールできるものではないので、信頼性の観点からカーボン抵抗を溶断に用いるのはリスクが高そうです。

対策と対応

考えられる対応策は以下の通りです。

  1. まず第一にカーボン抵抗を使わずにニクロム線などの電熱線を使用する
  2. 電熱線を複数系統(搭載リソース的に2,3個が限界?)用意して、不発であっても確実に溶断できるようにする
  3. 電熱線の冗長系統は時差をもって作動するようにする(気流の環境が変わる可能性があるため)
  4. 電熱線の電源電圧はバッテリー電圧ではなくドロップ電圧を使う(ただし他の部品への瞬低を起こさないように配慮したり、コンバータの定格電流に注意)

ぜひ今後のCanSatエンジニアにはこの反省を生かして信頼性の高いシステムの参考にしてほしいですし、ニクロム線は宇宙でも使うので自分自身もエンジニアとして肝に銘じておきたいところです。これ以外の対応策を思いついた方がいれば、コメントお待ちしています。

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