連載「弱みはAIに、強みは自分に。」 第1回 Claude Code × 自作RAGで「自分専用のAI右腕」を作ったら業務が激変した
はじめに — AIは毎回、私を忘れる
「昨日説明したこと、もう一回最初から話すの?」
AIアシスタントを使っていて、こう思ったことはないだろうか。
チャットを閉じた瞬間、すべてがリセットされる。プロジェクトの背景も、設計の経緯も、自分が何を得意としていて何に困っているかも、全部消える。
私は50代のSE。上流~下流までひととおり作業出来るが、主に要件定義や基本設計、バックエンド開発を得意としてきた。
一方でフロントエンド開発を中心としたもっと広い技術領域をカバーしたいという思いがずっとあった。
Claude CodeやChatGPTは確かに強力だ。コードも書けるし、設計の相談にも乗ってくれる。
だが毎回ゼロから自己紹介するのでは、「右腕」とは呼べない。本当に欲しかったのは、私の得意分野と苦手分野を知っていて、黙って補ってくれる存在だった。
だから、作った。
Knowledge Assistant(KA)——自分専用のAI知識基盤。
結果から言えば、業務が激変した。
KAとは何か
KAは、AIが「自分のことを覚えている」状態を作るためのシステムだ。
具体的にはこういう仕組みになっている:
ポイントは3つ:
- ChromaDB(セマンティック検索): 「あの件どうなった?」のような曖昧な質問でも、意味的に関連する情報を見つけ出す
- SQLite(構造化データ): 会話履歴、プロジェクト情報、記事メタデータなど、正確に検索したいデータを管理する
- エージェントチーム: 単一のAIではなく、セキュリティ・設計・品質管理など専門分野ごとのエージェントが協働する
これらがMCP(Model Context Protocol)で接続され、Claude Codeから自然言語で操作できる。
実際に起きたこと
エピソード1: 体調不良を相談したら、投薬履歴を探し出してきた
ある日、胃酸過多について何気なくKAに相談した。
すると、以前登録しておいたパーソナルデータから瞬時に花粉症の投薬履歴を探し出し、症状との因果関係を整理してくれた。
これは想定していなかった使い方だ。私がKAに登録していたのは業務関連の情報だけではなく、健康情報も含まれていた。(既にChatGPTからエクポートした約4年分の相談データを取込み済み)
KAはそれを「関連がある」と判断して引き出してきた。
医療の専門家ではないから、あくまで参考情報だ。しかし「自分のデータの中から関連情報を見つけて提示する」という動きは、まさに私が求めていた「右腕」の働きだった。
エピソード2: 機能追加を頼んだら、自分の設計書から該当箇所を特定し修正した
KAに新機能の追加を依頼したとき、KAは過去に登録されたシステム設計情報から該当する箇所を自力で特定し、ときには図などを用いて仕組みを解説した上で「ここを変更すれば実現できます。このまま実装しますか?」と提案してくる。
毎回私が「このシステムの構成はこうで、このファイルがこうなっていて…」と説明する必要がない。むしろこちらに説明してくれる。KAは既に自身について熟知しており、更に自身で改修することが出来る。
説明コストの消滅 という無駄な手順を省くことが出来る。これは日常の中で最も大きな変化だった。

得意なことに集中できるようになった
PHPやPythonばかり書いてきたこともあり、これらの言語は問題なく書ける。だがフロントエンドはこれらに比べて得意とはいえない。実はこれが常に不安だった。
しかしKAを使い始めてから、この状況が一変した。
例えばKAのブラウザUI(KB Browser)を作ったとき。私がやったのは「こういう画面が欲しい」と要件を伝え、出来上がったものに「ここはこう変えて」とフィードバックすることだった。HTML/CSS/JavaScriptのコーディングはClaude Codeが担当し私がそれらを確認する。コード内の不明な点について尋ねたり、時にはMermaid図によるチャートやシーケンス図を描画してもらい大まかな流れを学習、共有する。過去の設計方針やUI規約を踏まえた提案などもしてくれる。AIは優秀なエンジニアであると同時に素晴らしい指導者でもあるのだ。
上流の仕事——「何を作るか」を決め、「どう作るべきか」を設計すること——に集中できるようになった。
しかも、KAが私の過去の判断や設計思想を覚えているので、アイデア出しの壁打ち相手としても機能する。「前にこういう方針で決めたけど、今回のケースではどうだろう」と聞けば、過去の文脈を踏まえた上で表や図を多用して細かな意見をくれる。
一人で作業しているのに、チームで議論しているような感覚がある。
エージェントチームという仕組み
KAの特徴的な機能の一つが、エージェントチームだ。
単一のAIに全てを任せるのではなく、専門分野ごとに「担当者」を設けている。
| チーム | 主なメンバー | 役割 |
|---|---|---|
| ITチーム | アーキテクト、コードアナリスト、DevOps/SRE、QA、データエンジニア他 | システム開発・インフラ・品質保証 |
| コンテンツチーム | コンテンツストラテジスト、SEOライター、ブランド戦略他 | 技術記事の企画・執筆・発信戦略 |
| 常駐メンバー | PM/チームリーダー、デビルズアドボケイト、ファクトチェッカー | 品質管理・批判的検証・事実確認 |
例えばシステム修正を依頼すると、PMがタスクを分析し、アーキテクトが設計判断を行い、コードアナリストが実装し、QAがテスト観点を提示する。デビルズアドボケイトは常に「その判断は本当に正しいか?」と問い続ける。
全員AIだが、それぞれが異なる視点と専門知識を持っている。一人では気づかない観点を複数の「専門家」が補ってくれる。
技術構成
技術的な詳細に興味がある方向けに、もう少し具体的に。
使用技術
| コンポーネント | 技術 | 役割 |
|---|---|---|
| AI基盤 | Claude Code(Anthropic) | 自然言語での操作・コード生成 |
| ベクターDB | ChromaDB | セマンティック検索(意味ベースの情報検索) |
| RDB | SQLite | 構造化データの管理 |
| プロトコル | MCP(Model Context Protocol) | Claude Codeとの接続 |
| サーバ | Python(FastAPI) | MCP Server / KB Browser |
| インフラ | Docker Compose + VPS | コンテナ化された実行環境 |
構築期間
プロトタイプを1日、Version1.0を約3日で構築。
現在稼働から約1ヶ月(2026年2月下旬〜)。ただし「完成した」というよりは毎日進化している。最初は単純なRAG検索だけだったが、エージェントチーム、GraphRAG、品質スコアリング、自動RSS取込みなど、使いながら機能を追加し続けている。
コストの現実
現在の運用コストは以下のとおり。
月額コスト
| 項目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| VPS(KAGOYA) | 3,410円 | CPU6コア・メモリ8GB・SSD800GB |
| Claude(Max 5xプラン) | 約16,000円 | $100/月。Claude Code含む |
| 合計 | 約20,000円 |
当初Proプラン($20/月、約3,000円)を利用していたが、やはりあっという間に消費してしまう。
現在のClaudeのMax 5xプランでギリギリ週のリミットに到達するかしないかぐらい。
なお、私は基本的にコードをチェックしながら進めるタイプなのでそれほど並走させることはない。
構築コスト
金銭的な初期投資はVPSの月額だけ。
時間的コストは、最初の基盤構築に約3日、そこから日々改善を積み重ねている。
重要なのは、自分一人で構築できたということだ。Claude Code自身が開発の相棒なので、KAを作る過程でKAに助けられている。
まとめ — 完成品ではなく、進化途中
KAは完成したシステムではない。毎日使いながら、新しいアイデアを盛り込み、不具合が見つかれば修正している。
ただ、既に手放せない。
AIに毎回ゼロから説明する時代は、少なくとも自分の中では終わった。
自分の弱みをAIに預けて、自分の強みで勝負する。
これがKAを作って得た最大の変化だ。
次回は、KAの心臓部である情報取得の仕組みについて詳しく書く予定だ。
連載「弱みはAIに、強みは自分に。」
- 第1回: Claude Code × 自作RAGで「自分専用のAI右腕」を作ったら業務が激変した(本記事)
- 第2回: 情報取得設計編(予定)
- 第3回: エージェントチーム編(予定)
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